第157話 仇敵

文字数 483文字

 冷たく光る青い瞳が桜花を射すくめる。
「昔話はもう終わりだ。邪魔だてするなら、そなたもまた我が仇敵。忌々しき天女の末裔よ、奈落へと堕としてくれるわ!」
 言うと同時に浅葱は桜花に襲いかかろうとする。
 伊織は桜花の前に立ちはだかり、刀を構えるが、激しい衝撃に弾き飛ばされる。
「ただの刀など効かぬ、と言ったはずだ!」
 雷を受けたかのように全身が痺れている。刀を支えに、どうにか体を起こした伊織の視界に映ったのは、浅葱の手が首にかけられた桜花の姿。
 結界を保ち続けている守護石は使えない。桜花は必死に外そうともがくが、鬼の腕はびくともしない。
「あ……うっ」
「天女の末裔といえども所詮は人間、脆弱なものよのう」
 つぶやきながら浅葱は首にかけた手に力をこめる。今度こそ誰にも邪魔はさせない。
「桜花!」
 抗っていた腕がだらりと下がり、瞳から生気が失われていく。
 桜花の命の灯が消えようとしている──眼前で起こりつつある惨劇に、伊織は体中の血が逆流するのを感じた。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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