第132話 人払い

文字数 578文字

「あなたの手の中で守護石が輝いているでしょう? 石が反応するのは破魔の者だけ。今はそのことを覚えていて」
 すぐにはわからなくても、いずれ理解できるはずだ。おそらくは遠くないうちに。
 守護石を再び大切に懐に収めると、桜花は伊織の袖をつかんだ。
「お願いがあるの、伊織。今すぐ隼人さまにお目通りできるよう、取り次いで」
「殿に?」
「報告しなければいけないことがあるの。できるだけ早く」
 桜花の思いつめた表情が尋常ではない事態を物語っていた。伊織もまた真顔になって、承知した、と返答した。

 隼人への目通りはすぐにかない、桜花は広間に通された。伊織も一緒である。
「改まってどうしました? 桜花どの、お加減が悪いと聞いていましたが、もうよろしいのですか」
 両手をつき、頭を下げながら、はい、と桜花は答える。
「お気づかい、ありがとうございます。ご心配をおかけしました。もう大丈夫でございます。あの、それで……」
 言いにくそうに桜花は口ごもった。広間には隼人だけでなく、何人かの側近たちが同席している。
「重大なお話がございます。どうかお人払いを──」
 隼人は不可解そうに首をひねったが、桜花の真剣さを汲んで了承した。
「皆、少し席を外してもらえるかな」




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み