第88話 どうすれば

文字数 551文字

 その日は話はそこで終わりだった。上の空のまま夕餉を取り、鳥籠に餌と水を用意する。
 小鳥が落ち着けるように籠に布をかぶせると、どっと疲れが出て、桜花は早めに床についた。
 とはいえ、すんなりと眠れるはずもない。
 何度も寝返りを打っては、大きく吐息する。
 頬が熱い。鏡を見たら、きっと紅潮しているだろう。
 本当に、どうしてこんな展開になってしまったのか。
 もちろん和臣は嫌いではない。伊織と三人で幼い頃からよく一緒に遊んだし、今もいろいろと気づかってくれる。
 知的で、すらりと背が高くて礼儀正しく、顔立ちも涼やかで、城の侍女たちの中にも憧れている者が大勢いる。
 桜花とて年頃の娘だ。そんな彼が自分に好意を持っていてくれたのは、素直に嬉しいし、誇らしい気さえする。
 しかし、縁談となると話は別だ。
 もの心ついた頃から、好むと好まざるとにかかわらず、桜花は巫女として生きてきた。伝統を学び、所作を覚え、舞いを習い……他の選択肢などあり得ないと信じこんでいた。
 なのに、今日一日でさまざまな状況が変わってしまった気がする。
 どうすればいい?
 明確な答えなどありはしない問いを、桜花は繰り返す。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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