第137話 逆刃

文字数 576文字

 が、妖気が桜花と伊織に浴びせられようとした瞬間。桜花の胸もとが金色に輝き、藤音の放った黒い気は霧消した。
「!」
 驚いたように藤音の眼が見開かれ、桜花は急いで懐から天河石を取り出す。
「なるほど……守護石か。小賢しいものを持っておる」
 藤音の唇からこぼれた声は彼女のものではなかった。低い、魅惑的でさえある男の声。
 隼人は眼前の出来事がまだ信じられない思いだった。藤音が鬼に魅入られている……桜花が必死に訴えていたことは真実だったのだ。
「ならば、これはどうかな」
 藤音の姿を借りた鬼は指をぱちっと弾く。
 と、庭で倒れていた者たちがゆらりと立ち上がった。館の護衛の者たちだ。
 彼らは殺気をみなぎらせて刀を抜き、こちらに向かって近づいてくる。
「桜花、隼人さまを頼む!」
 言い残して、伊織が二人を守るように前に出る。
「伊織、あの人たちは……」
 ただ鬼に操られているだけ、と言おうとする桜花に、わかっている、という風にうなずいてみせる。
 伊織は抜いた刀を反転させ、逆刃(さかば)に握り直した。
 たとえこちらが不利になるとしても、操られている彼らを斬るわけにはいかない。
 真っ先に斬りつけてくる相手の刃を寸前で避け、逆刃で背を打ちつける。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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