第175話 声の主
文字数 427文字
返事はない。額を寄せ、切なく名を呼ぶ。
「桜花……!」
もう一度、声が聞きたい。笑顔が見たい。
何という皮肉だろう、と伊織は自嘲した。今頃になって愛しい者を失った浅葱の痛みがわかるとは。
苦い想いを噛みしめる伊織の耳に、不意に細い声が入ってくる。
──……の血を継ぐ者よ。
伊織は不審げに周囲を見回したが、部屋の中には自分たち二人だけしかいない。
一瞬、幻聴かとも思ったが、声は先刻よりはっきりと呼びかけてくる。
──龍の血を継ぐ者よ。わたくしをここから出してください。
ようやく伊織はこの部屋にいるもうひとつの存在に気づいた。
声の主は鳥籠の中。以前、屋敷への帰り道で、怪我をしているところを保護した白い鳥だ。確か桜花が、みゆ、と名づけていた。
人の言葉で語りかけてくる小鳥に不思議と違和感はなかった。琴の音色のような心地よい声。
請われた通り、鳥籠の扉を開けて出してやると。
たちまち小鳥は光に包まれ、ふわりとした衣をまとった美しい女人に姿を変えた。
「桜花……!」
もう一度、声が聞きたい。笑顔が見たい。
何という皮肉だろう、と伊織は自嘲した。今頃になって愛しい者を失った浅葱の痛みがわかるとは。
苦い想いを噛みしめる伊織の耳に、不意に細い声が入ってくる。
──……の血を継ぐ者よ。
伊織は不審げに周囲を見回したが、部屋の中には自分たち二人だけしかいない。
一瞬、幻聴かとも思ったが、声は先刻よりはっきりと呼びかけてくる。
──龍の血を継ぐ者よ。わたくしをここから出してください。
ようやく伊織はこの部屋にいるもうひとつの存在に気づいた。
声の主は鳥籠の中。以前、屋敷への帰り道で、怪我をしているところを保護した白い鳥だ。確か桜花が、みゆ、と名づけていた。
人の言葉で語りかけてくる小鳥に不思議と違和感はなかった。琴の音色のような心地よい声。
請われた通り、鳥籠の扉を開けて出してやると。
たちまち小鳥は光に包まれ、ふわりとした衣をまとった美しい女人に姿を変えた。