第85話 縁談
文字数 580文字
これで用事は全部だ。小鳥のこと、子供の薬湯のこと。今話しておかないと、後になったら忘れてしまいそうだ。
部屋に上がっても、桜花は中をうろうろと歩き回ってきた。くわしい話を祖父に確かめたいのだが、どう切り出したらいいものか、糸口がつかめない。
祖父はそんな様子の桜花を、呆れたようにたしなめる。
「これ、桜花。何をそわそわしておる。もっと落ち着いてここに座りなさい」
「……はい」
祖父の言葉に従い、桜花は向かいに正座する。
鳥籠を探してくるように下働きの者に指示すると、祖父は再び桜花に視線を戻し、口火を切った。
「先ほど、桐生の和臣どのが来られたが」
「存じております。ちょうど帰り際にお会いしました」
「では、例の件はもう聞いたのか?」
桜花はこくりとうなずいた。
「なら話は早い。和臣どのがそなたを正室に迎えたいとおっしゃっておる」
「……」
返事のしようがないまま、とりあえず一番大きな疑問を口にする。
「あの、和臣さまはなぜ急に、そのようなお話を……」
「何でも母御が殿の婚礼以来、すっかり嫁を取る気になられてな、あちこちから縁談を持ってきて、すっかり辟易 されていたようで」
そういえば、伊織がそんな話をしていたような気がする。
部屋に上がっても、桜花は中をうろうろと歩き回ってきた。くわしい話を祖父に確かめたいのだが、どう切り出したらいいものか、糸口がつかめない。
祖父はそんな様子の桜花を、呆れたようにたしなめる。
「これ、桜花。何をそわそわしておる。もっと落ち着いてここに座りなさい」
「……はい」
祖父の言葉に従い、桜花は向かいに正座する。
鳥籠を探してくるように下働きの者に指示すると、祖父は再び桜花に視線を戻し、口火を切った。
「先ほど、桐生の和臣どのが来られたが」
「存じております。ちょうど帰り際にお会いしました」
「では、例の件はもう聞いたのか?」
桜花はこくりとうなずいた。
「なら話は早い。和臣どのがそなたを正室に迎えたいとおっしゃっておる」
「……」
返事のしようがないまま、とりあえず一番大きな疑問を口にする。
「あの、和臣さまはなぜ急に、そのようなお話を……」
「何でも母御が殿の婚礼以来、すっかり嫁を取る気になられてな、あちこちから縁談を持ってきて、すっかり
そういえば、伊織がそんな話をしていたような気がする。