第83話 宣言
文字数 552文字
残された桜花と伊織は無言で顔を見あわせる。
「桜花? 帰ったのか?」
門のむこう、屋敷の方から祖父の声がした。その声をきっかけに、
「じゃ、俺もこれで……」
「あ、伊織!」
抑揚のない口調で告げると、引き止める暇 もなく、伊織は背を向けて帰っていく。振り返りもせずに。
突然の求婚に驚いたのは、桜花だけでなく伊織も同じだった。後ろから頭を一発、思いきり殴られたような気分だ。
兄が桜花に好意を寄せているのは、薄々感じていた。
しかし心のどこかで安心していたのだ。巫女である桜花には、縁談など無関係だろうと。
そんな障壁を兄は軽々と乗り越えてしまった。
ふと伊織はこんぺいとう、を思い出した。
遠海に向かう前日。桜花の部屋を訪れた時、兄は言った。
──何だ、伊織。今頃来ても、こんぺいとうはやらんぞ。
あれは菓子の話だった。だが、あの時すでに兄は自分に宣言していたのではないか。
桜花はやらんぞ──と。
二人が去り、小鳥と共にぽつねんと取り残された桜花は、とにかく玄関まで急いだ。
祖父にきちんと説明してもらわなくては。
いったい、何がどうなって、こんな展開になったのか。
「桜花? 帰ったのか?」
門のむこう、屋敷の方から祖父の声がした。その声をきっかけに、
「じゃ、俺もこれで……」
「あ、伊織!」
抑揚のない口調で告げると、引き止める
突然の求婚に驚いたのは、桜花だけでなく伊織も同じだった。後ろから頭を一発、思いきり殴られたような気分だ。
兄が桜花に好意を寄せているのは、薄々感じていた。
しかし心のどこかで安心していたのだ。巫女である桜花には、縁談など無関係だろうと。
そんな障壁を兄は軽々と乗り越えてしまった。
ふと伊織はこんぺいとう、を思い出した。
遠海に向かう前日。桜花の部屋を訪れた時、兄は言った。
──何だ、伊織。今頃来ても、こんぺいとうはやらんぞ。
あれは菓子の話だった。だが、あの時すでに兄は自分に宣言していたのではないか。
桜花はやらんぞ──と。
二人が去り、小鳥と共にぽつねんと取り残された桜花は、とにかく玄関まで急いだ。
祖父にきちんと説明してもらわなくては。
いったい、何がどうなって、こんな展開になったのか。