第83話 宣言

文字数 552文字

 残された桜花と伊織は無言で顔を見あわせる。
「桜花? 帰ったのか?」
 門のむこう、屋敷の方から祖父の声がした。その声をきっかけに、
「じゃ、俺もこれで……」
「あ、伊織!」
 抑揚のない口調で告げると、引き止める(いとま)もなく、伊織は背を向けて帰っていく。振り返りもせずに。
 突然の求婚に驚いたのは、桜花だけでなく伊織も同じだった。後ろから頭を一発、思いきり殴られたような気分だ。
 兄が桜花に好意を寄せているのは、薄々感じていた。
 しかし心のどこかで安心していたのだ。巫女である桜花には、縁談など無関係だろうと。
 そんな障壁を兄は軽々と乗り越えてしまった。
 ふと伊織はこんぺいとう、を思い出した。
 遠海に向かう前日。桜花の部屋を訪れた時、兄は言った。
 ──何だ、伊織。今頃来ても、こんぺいとうはやらんぞ。
 あれは菓子の話だった。だが、あの時すでに兄は自分に宣言していたのではないか。
 桜花はやらんぞ──と。

 二人が去り、小鳥と共にぽつねんと取り残された桜花は、とにかく玄関まで急いだ。
 祖父にきちんと説明してもらわなくては。
 いったい、何がどうなって、こんな展開になったのか。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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