第116話 天からの雫
文字数 576文字
思い通りに動かない身体をもどかしく感じながら、砂を踏みしめていく。一歩ごとに足が砂にめりこむ感触がいつにも増して重い。
こんな時、伊織がそばにいてくれたら、どんなに心強いだろう。
けれど今は時間がなかった。一刻も早く、鬼封じの岩まで行かなければならない。
砂に足を取られて何度もよろけながら、ようやく大岩の場所までたどり着いた桜花は驚愕して眼を見開いた。
大岩には真っ二つに亀裂が入り、上部にかかっていた〆縄も引きちぎられている。
「これは……」
呆然とつぶやく桜花の声が風に乗り、宙を流れていく。
あたりに大きな妖気は感じられない。わずかに残り香が漂っているだけだ。鬼はもはや岩の中にはいないのだ。
効力は弱まっていたとはいえ、昨夜まで封印は確かに健在だった。
そして今朝の異変。
誰か、人が鬼と同調し、封印を解いたのだ。
では、誰が?
誰が鬼と心を通わせ、受け入れたというのだろう。
困惑するばかりの桜花の頬に、ぽつり、と雨粒が当たった。
それを合図にしたかように大粒の雨が降ってくる。
天からの雫がたちまち桜花の髪を、顔を、身体を濡らす。
だが桜花は激しい雨も感じないかのように、身じろぎもせずその場に立ちつくしていた。
こんな時、伊織がそばにいてくれたら、どんなに心強いだろう。
けれど今は時間がなかった。一刻も早く、鬼封じの岩まで行かなければならない。
砂に足を取られて何度もよろけながら、ようやく大岩の場所までたどり着いた桜花は驚愕して眼を見開いた。
大岩には真っ二つに亀裂が入り、上部にかかっていた〆縄も引きちぎられている。
「これは……」
呆然とつぶやく桜花の声が風に乗り、宙を流れていく。
あたりに大きな妖気は感じられない。わずかに残り香が漂っているだけだ。鬼はもはや岩の中にはいないのだ。
効力は弱まっていたとはいえ、昨夜まで封印は確かに健在だった。
そして今朝の異変。
誰か、人が鬼と同調し、封印を解いたのだ。
では、誰が?
誰が鬼と心を通わせ、受け入れたというのだろう。
困惑するばかりの桜花の頬に、ぽつり、と雨粒が当たった。
それを合図にしたかように大粒の雨が降ってくる。
天からの雫がたちまち桜花の髪を、顔を、身体を濡らす。
だが桜花は激しい雨も感じないかのように、身じろぎもせずその場に立ちつくしていた。