第122話 かなわぬ望み
文字数 555文字
──時にはかなわぬ望みすら、闇に呑まれる時がある。
以前聞いた、祖父の言葉が脳裏に浮かぶ。
悪夢をみているようだった。いつも気にかけてくれた。優しくてしてくれた。なのに……。
今の和臣は正気を失い、力づくで桜花を自分のものにしようとしている。
桜花がいくら力をこめても男の体はびくともしない。せわしなく身体をまさぐる指。うなじにかかる荒い息づかい。
逃れられない。絶望が心を凍てつかせる。
白い上着の胸元が乱暴に広げられ、声にならない叫びが桜花の唇から洩れる。
──伊織……助けて……。
そして桜花の恐怖と絶望が頂点に達した刹那。
心臓がどくん、と大きく脈打ち、凄まじい風が巻き起こった。
風は桜花を取り囲むようにして渦を巻き、真空の刃となって周囲のすべてに襲いかかる。
「うわっ!」
その刃に肩から背にかけて大きく切り裂かれ、和臣が倒れ伏す。同時に宿っていた黒い影が離れ、姿を消していく。
和臣の傷は深かった。鮮血がみるみる床を染めていく。
しかし桜花は動けなかった。鬼が去り、和臣が傷を負っても。
なぜなら桜花を取り巻く風は荒れ狂い、もはや桜花自身にも制御できなくなっていたのだ。
以前聞いた、祖父の言葉が脳裏に浮かぶ。
悪夢をみているようだった。いつも気にかけてくれた。優しくてしてくれた。なのに……。
今の和臣は正気を失い、力づくで桜花を自分のものにしようとしている。
桜花がいくら力をこめても男の体はびくともしない。せわしなく身体をまさぐる指。うなじにかかる荒い息づかい。
逃れられない。絶望が心を凍てつかせる。
白い上着の胸元が乱暴に広げられ、声にならない叫びが桜花の唇から洩れる。
──伊織……助けて……。
そして桜花の恐怖と絶望が頂点に達した刹那。
心臓がどくん、と大きく脈打ち、凄まじい風が巻き起こった。
風は桜花を取り囲むようにして渦を巻き、真空の刃となって周囲のすべてに襲いかかる。
「うわっ!」
その刃に肩から背にかけて大きく切り裂かれ、和臣が倒れ伏す。同時に宿っていた黒い影が離れ、姿を消していく。
和臣の傷は深かった。鮮血がみるみる床を染めていく。
しかし桜花は動けなかった。鬼が去り、和臣が傷を負っても。
なぜなら桜花を取り巻く風は荒れ狂い、もはや桜花自身にも制御できなくなっていたのだ。