第86話 嫁ぐためには
文字数 568文字
「母御があまりに熱心なので、つい自分の妻くらい自分で選ぶと言ったところ、ならば想う相手は誰だと問いつめられ、そなたの名が出たらしい」
「はあ……」
桜花は間の抜けた相槌を打った。納得できたような、できないような……。
「ですが、おじいさま、わたしは九条家に仕える巫女。誰かのもとへ嫁ぐなどということが許されるのでしょうか」
そこへ鳥籠が運ばれて来た。ひとまず小鳥を籠へ移すと、祖父はうむ、とうなって腕組みをした。
「和臣どのもそのことを気にかけておられた。だからこそ、わしのところへ相談に来たのじゃよ」
今のままでは無理であろう、と祖父は断言する。
「嫁ぐためには巫女の座を降りねばならん」
「巫女の座を……」
桜花は祖父の言葉を鸚鵡 返しにつぶやいた。
今まで考えてみたこともなかった。天宮の家に生まれた娘は、当然のように巫女になるものだと教えられてきたからだ。
とまどうばかりの桜花に、そう深刻にならずともよい、と祖父は穏やかに語りかける。
「そなたの持つ破魔の力は生まれつきのもの。たとえ巫女の座を降りて嫁いだとしても、力は消えることはない。安心するがいい」
桜花はそっと手を握る。自分の中の、不確かな「力」……。
「はあ……」
桜花は間の抜けた相槌を打った。納得できたような、できないような……。
「ですが、おじいさま、わたしは九条家に仕える巫女。誰かのもとへ嫁ぐなどということが許されるのでしょうか」
そこへ鳥籠が運ばれて来た。ひとまず小鳥を籠へ移すと、祖父はうむ、とうなって腕組みをした。
「和臣どのもそのことを気にかけておられた。だからこそ、わしのところへ相談に来たのじゃよ」
今のままでは無理であろう、と祖父は断言する。
「嫁ぐためには巫女の座を降りねばならん」
「巫女の座を……」
桜花は祖父の言葉を
今まで考えてみたこともなかった。天宮の家に生まれた娘は、当然のように巫女になるものだと教えられてきたからだ。
とまどうばかりの桜花に、そう深刻にならずともよい、と祖父は穏やかに語りかける。
「そなたの持つ破魔の力は生まれつきのもの。たとえ巫女の座を降りて嫁いだとしても、力は消えることはない。安心するがいい」
桜花はそっと手を握る。自分の中の、不確かな「力」……。