第87話 直系の血
文字数 595文字
「実際に何人かの天宮の娘は巫女の座を降り、嫁いでおる。そなたの母、わしのひとり娘の花乃 もそうじゃった」
「母さまも……」
思い浮かぶのは白いほっそりした手。優しい笑顔。慕う気持ちとは裏腹に、面影はどんどん儚くなっていく。
「花乃は神官であったそなたの父と出会い、好きあって嫁いだのじゃよ。ただひとりの孫娘を残し、早くに逝ってしまったが……」
夭折した娘をしのぶように、祖父は遠い眼をする。
「そなたの父も逝き、もはや残されたのはこの年寄りと、桜花、そなただけになってしまった」
向かいあって座る、二人だけのひっそりとした空間。
「そなたが子をなさねば天宮の直系の血は絶えるでな」
それもまた、突きつけられた現実だ。
「だが、わしは何より、大切な孫娘に幸せになってほしい。ひとりの娘として好いた相手に嫁ぎ、家庭を持ち……」
桜花はただ黙って祖父の言葉を聞いていた。
あまりに突然すぎて、気持ちの整理がつかない。
どう答えたらよいかさえ、わからない。
祖父は桜花の困惑を充分に承知の上で、鷹揚な口調で告げた。
「唐突な話で、驚くのも無理はない。和臣どのも返事は急がないと仰せじゃった。どうするか、もちろん決めるのはそなた自身だが、この機会に一度、ゆっくりと考えてみるといい」
「母さまも……」
思い浮かぶのは白いほっそりした手。優しい笑顔。慕う気持ちとは裏腹に、面影はどんどん儚くなっていく。
「花乃は神官であったそなたの父と出会い、好きあって嫁いだのじゃよ。ただひとりの孫娘を残し、早くに逝ってしまったが……」
夭折した娘をしのぶように、祖父は遠い眼をする。
「そなたの父も逝き、もはや残されたのはこの年寄りと、桜花、そなただけになってしまった」
向かいあって座る、二人だけのひっそりとした空間。
「そなたが子をなさねば天宮の直系の血は絶えるでな」
それもまた、突きつけられた現実だ。
「だが、わしは何より、大切な孫娘に幸せになってほしい。ひとりの娘として好いた相手に嫁ぎ、家庭を持ち……」
桜花はただ黙って祖父の言葉を聞いていた。
あまりに突然すぎて、気持ちの整理がつかない。
どう答えたらよいかさえ、わからない。
祖父は桜花の困惑を充分に承知の上で、鷹揚な口調で告げた。
「唐突な話で、驚くのも無理はない。和臣どのも返事は急がないと仰せじゃった。どうするか、もちろん決めるのはそなた自身だが、この機会に一度、ゆっくりと考えてみるといい」