第162話 永久(とこしえ)に

文字数 487文字

「お願い、復讐などやめて。同じ過ちを繰り返さないで」 
 思いもよらない唯姫の言の葉に、浅葱の顔に動揺が浮かぶ。
「我のしていることは過ちだと申すか?」
 両肩をつかみ、揺さぶるようにして問いかける。
「そなたは本当にそれでよいのか。我をかばい、実の父の刃で命を落とした己が運命を恨まぬのか !?
 いいえ、と姫はかぶりを振り、穏やかに微笑んだ。
「恨んでも詮無きこと。わたくしにとって大切なのは、あなたを愛したという真実だけ。どうしてもこの気持ちを伝えたかった」
 静寂な森の奥深く、睦みあい、短くとも幸福だった日々。
 過ちだというのなら、いったいどこで間違ってしまったのか。求めたものはただひとつ、愛する者と暮らしていきたかっただけなのに。
「憎しみを糧に生きるのはとても辛いこと。もう苦しまないで。共に眠りましょう」
 愛おしげに両手で頬を包みこむと、浅葱の険しかった形相がやわらいでいく。
 唯姫の放つ輝きが、憎悪に染まった情念を浄化していくかのように。
 光は桜花の持つ力と同化して伊織をも照らし、魔剣が負わせた肩の傷を癒していく。
「彼岸であなたを待っているわ。今度こそ永久(とこしえ)に一緒よ」




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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