第11話 縁組

エピソード文字数 477文字

 とはいえ、本人の意向を無視して話はどんどん進んでいこうとしている。
「すべては国のため、領民のためですぞ!」
 それが結城の最大の切り札だった。だてに教育係として長年育ててきたわけではない。隼人の落としどころを実によく心得てい る。
 かくして、家老の策略にはまった年若い当主は、隣国から花嫁を迎えることに相成ったのだった。

 回想から現実に戻ると、隼人はまたもやため息をついた。今日、幾度目かわからないほどである。
 伊織も桜花も何と言ってよいかわからず、ただ黙って見つめるのみだ。
「わたしはまだしも、人質同然に嫁いでくる藤音姫が気の毒で……」
 そんなつぶやきに、桜花がかすかに眉根を寄せて問いかける。
「隼人さまもご家老さまたちと同じように、藤音さまを人質などとお考えなのですか?」
 まさか、と隼人は大きく かぶりを振った。
「決してそんな風には考えていません。しかし、この城の多くの者、そして何より藤音姫自身がそう思っているのではないかと……」




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


桜花の幼馴染。始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

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