第82話 大切な話

文字数 573文字

 門のところで三人は立ち止まり、桜花はたずねかけた。
「どうなさいましたの? おじいさまに何か用でも?」
「ええ。実は、大切な話がありまして、こちらにお邪魔したのですよ」
「大切な話?」
 両手に小鳥をつつんだまま、首をかしげる桜花に和臣は軽く咳払いする。
「今日は天宮の祖父どのにご相談とお願いに参ったのです」
 かしこまった言い方に桜花はますます当惑する。おまけにどうしたわけか、日頃は冷静な和臣が妙に高揚している。
 いくぶん照れたように桜花を見つめながら、和臣は続けた。
「先ほど、祖父どのにお願いしてまいりました。ぜひ桜花どのをわたしの正室にお迎えしたいと」
「え──?」
 桜花はあやうく手の中の小鳥を地面に落とすところだった。
 あまりに唐突すぎて頭がくらくらしそうだ。
 正室? 和臣の? なぜ急にそんな話が?
 祖父は何と返事を? まさか本人のいない所で承諾してしまったわけではあるまいが……。
 和臣は桜花の混乱を見透かしたように、
「突然でさぞや驚かれたでしょう。詳しいことは祖父どのからお聞きください。今日のところは帰りますが、また近日中にうかがいます」
 いつになく緊張しているのだろう、やや早口で言うと、一礼して去っていく。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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