第68話 散策
文字数 589文字
陽の落ちた浜辺は青紫に染まり、他には人影とてない。
ゆっくりと歩を進める二人の後を、付添いと護衛と巫女が遠慮しつつ、少し離れてついていく。
しばらく歩くと隼人は立ち止まった。
あわせて藤音も歩みを止め、隼人を仰ぎ見る。ぞろぞろと後ろを歩いていた四人もあわてて停止する。
「いかがですか? 海辺の散策は気持ちのよいものでしょう?」
「はい、とても。お話いただいた通りでございますのね」
ゆったりした微笑をむける隼人に、藤音も微笑み返す。
満足げにうなずくと、隼人ははるか彼方、水平線に視線を投げた。
「この海の向こうにはまだ見たことのないたくさんの国があります。いつかここから船出して広い世界を見てみたい……それがわたしの夢なのです」
そこまで話してから、再び藤音にまなざしを向ける。
「旅立つ時は、ぜひあなたも一緒に──」
はにかんだ表情で差しのべられる手。
藤音はその手を取ろうとして、ためらい、指先にだけそっと触れる。
「わたくしは……」
言葉をとぎらせ、うつむいてしまう。
ずっと心にかかえてきた葛藤。
このまま隼人の優しさに甘えてしまっていいのだろうか。
過去には眼をつむって、自分だけ幸せになっても……?
けれど、決して忘れ得ぬものもあるのだ。
ゆっくりと歩を進める二人の後を、付添いと護衛と巫女が遠慮しつつ、少し離れてついていく。
しばらく歩くと隼人は立ち止まった。
あわせて藤音も歩みを止め、隼人を仰ぎ見る。ぞろぞろと後ろを歩いていた四人もあわてて停止する。
「いかがですか? 海辺の散策は気持ちのよいものでしょう?」
「はい、とても。お話いただいた通りでございますのね」
ゆったりした微笑をむける隼人に、藤音も微笑み返す。
満足げにうなずくと、隼人ははるか彼方、水平線に視線を投げた。
「この海の向こうにはまだ見たことのないたくさんの国があります。いつかここから船出して広い世界を見てみたい……それがわたしの夢なのです」
そこまで話してから、再び藤音にまなざしを向ける。
「旅立つ時は、ぜひあなたも一緒に──」
はにかんだ表情で差しのべられる手。
藤音はその手を取ろうとして、ためらい、指先にだけそっと触れる。
「わたくしは……」
言葉をとぎらせ、うつむいてしまう。
ずっと心にかかえてきた葛藤。
このまま隼人の優しさに甘えてしまっていいのだろうか。
過去には眼をつむって、自分だけ幸せになっても……?
けれど、決して忘れ得ぬものもあるのだ。