第133話 桜花の断言

文字数 544文字

 (あるじ)の言に従い、その場にいた者たちが広間を出ていく。伊織も立ち上がりかけたところを、
「伊織、あなたはここにいて。あなたにも関係あることだから」
 引き止められ、再び腰を降ろす。
 桜花は懐の守護石にそっとふれた。この石が教えてくれた。伊織は龍の血を継ぐ破魔の者だ。きっと鬼を倒す力になってくれるはずだ。
 三人だけになった広間で改めて隼人がたずねてくる。
「いかがしました、桜花どの? わざわざ人払いまでして」
 桜花は慎重に言葉を選んで、しかしはっきりと話し出した。
「まずはご報告しなければなりません。封じの岩が破壊され、鬼が解き放たれました」
「鬼が?」
 隼人は当惑した声を出す。
「言い伝えは知っていますが、鬼などというものが本当に存在するのですか?」
 隼人は南蛮の学問にも通じた現実主義者だ。伝承は尊重するが、自身は信じてはいない。真に恐ろしいのは生きた人間、という考えの持ち主だ。
 かといって決して頑なではない。桜花の真摯な言葉を受け入れる柔軟さをも持ちあわせている。
「はい。信じられないかもしれませんが、確かに鬼は存在いたします」
 きっぱりと桜花は断言した。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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