第150話 出会いと当惑
文字数 516文字
浅葱は大きくまばたきしてから、足を止め、信じられないものを見るように振り向いた。
母以外の人間に言葉をかけられたのは初めてだった。
娘は今にも倒れそうな男を支えたまま、懸命に訴えてくる。
──父が怪我をして難儀しております。近くに休める場所はございませんでしょうか。
鈴の音のように美しく、そして必死な声だった。鬼に対する恐怖より、父への心配の方がまさっていた。
人の方から話しかけてくるなど、予想もしなかったなりゆきに浅葱はとまどった。どうしたらよいのかわからなかった。
男は小さくうめき声を上げ、娘は励ますように、
──お父さま、しっかりなさってくださいませ。どこか休める場所を見つけます。
父を案じる娘の姿に亡き母が重なった。
父……自分には記憶すらない存在だ。
よく見れば娘自身も森の中を彷徨っているうちに、手や足にいくつものひっかき傷ができて血が滲んでいる。
不意に憐憫といった思いがこみあげ、浅葱はぽつりと言った。
──こちらへ……。
自分でも当惑しながら、娘の歩みに合わせ、ゆっくりと歩いていく。
母以外の人間に言葉をかけられたのは初めてだった。
娘は今にも倒れそうな男を支えたまま、懸命に訴えてくる。
──父が怪我をして難儀しております。近くに休める場所はございませんでしょうか。
鈴の音のように美しく、そして必死な声だった。鬼に対する恐怖より、父への心配の方がまさっていた。
人の方から話しかけてくるなど、予想もしなかったなりゆきに浅葱はとまどった。どうしたらよいのかわからなかった。
男は小さくうめき声を上げ、娘は励ますように、
──お父さま、しっかりなさってくださいませ。どこか休める場所を見つけます。
父を案じる娘の姿に亡き母が重なった。
父……自分には記憶すらない存在だ。
よく見れば娘自身も森の中を彷徨っているうちに、手や足にいくつものひっかき傷ができて血が滲んでいる。
不意に憐憫といった思いがこみあげ、浅葱はぽつりと言った。
──こちらへ……。
自分でも当惑しながら、娘の歩みに合わせ、ゆっくりと歩いていく。