第127話 天河石(てんがせき)

文字数 656文字

 桜花の母、花乃が亡くなった時、十耶は預かりものをしていた。桜花がもう少し成長したら渡そうと思って、うかつにも今まで持ったままになっていたのだ。
 十耶は桜花の枕もとから静かに立ち上がった。
「そなたに渡したいものがある。わしの部屋にあって、すぐに取ってくるでな、待っていなさい」
 祖父の言う渡したいものとは見当もつかなかったが、桜花は床の中で小さくうなずく。
 ほどなく戻ってきた祖父は手に、布に包まれたものを持っていた。
 再び桜花の枕もとに座ると布をほどき、中身を示して見せる。それは楕円形をした小さな石で、空の青を映したような美しい色をしている。
「その石は?」
「持ってみるといい」
 言われるまま、手のひらに乗せてみると。
 高い、澄んだ音がして、桜花の手の中で石がぽうっと淡く輝いた。
「これは天河石(てんがせき)といって、代々天宮家に受け継がれてきた守護石じゃ。本来ならそなたの母が亡くなった時に継承されるはずじゃった。だが、そなたはまだ幼かったのでな、このじいが預かっておった」 
 座ったまま、祖父は桜花にむかって深く(こうべ)を垂れた。
「もっと早くに渡すべきじゃった。すまなかった」
 隠居してから十耶はずっと遠海に住み、桜花とは離れて暮らしていた。十耶にとって桜花は、いつまでも小さな子供のような気がしていたのだ。
「いいえ、おじいさまは何も悪くありませんわ。どうかお顔を上げてください」




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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