第140話 贖罪
文字数 601文字
「藤音……」
困惑しながらも手を伸ばしかける隼人に、さらに藤音は言葉を続ける。だが今度は先ほどとは違っていた。藤音と鬼との声が入り混じり、重なりあっている。
「先にお逝きなさいませ。藤音も後からすぐまいります。あなたさまが最後の当主となりましょう。滅びるべきなのです。忌まわしき九条の血は」
鬼に操られた藤音は素早く懐剣を取り出し、隼人めがけて振りかざす。
しかし隼人は動かなかった。
呪縛されていたわけではない。にもかかわらず、剣を避けようとさえしない。まるでそうすることが贖罪 であるかのように。
予想される惨劇に桜花は思わず両手で顔をおおう。
が、ひと呼吸おいて、おそるおそる手を外すと。
剣は隼人の目前で止まっていた。
正確に言えば、ぴたりと静止していたのではない。まるで二人の人間が奪いあっているかのように、切っ先が小刻みに震えている。
「……どうか、お逃げください」
鬼に抗 い、藤音が苦しげな声を絞り出す。
「まだわたくしが正気を保っていられるうちに、お早く……」
藤音と、鬼と。ひとりの身体の中で二つの意志がせめぎあっているのだ。
懸命に鬼に抵抗する藤音は、切っ先を自分の喉元へと向けた。
「藤音 !?」
思わず声を上げる隼人に淡く微笑んでみせる。
困惑しながらも手を伸ばしかける隼人に、さらに藤音は言葉を続ける。だが今度は先ほどとは違っていた。藤音と鬼との声が入り混じり、重なりあっている。
「先にお逝きなさいませ。藤音も後からすぐまいります。あなたさまが最後の当主となりましょう。滅びるべきなのです。忌まわしき九条の血は」
鬼に操られた藤音は素早く懐剣を取り出し、隼人めがけて振りかざす。
しかし隼人は動かなかった。
呪縛されていたわけではない。にもかかわらず、剣を避けようとさえしない。まるでそうすることが
予想される惨劇に桜花は思わず両手で顔をおおう。
が、ひと呼吸おいて、おそるおそる手を外すと。
剣は隼人の目前で止まっていた。
正確に言えば、ぴたりと静止していたのではない。まるで二人の人間が奪いあっているかのように、切っ先が小刻みに震えている。
「……どうか、お逃げください」
鬼に
「まだわたくしが正気を保っていられるうちに、お早く……」
藤音と、鬼と。ひとりの身体の中で二つの意志がせめぎあっているのだ。
懸命に鬼に抵抗する藤音は、切っ先を自分の喉元へと向けた。
「藤音 !?」
思わず声を上げる隼人に淡く微笑んでみせる。