第112話 月明かり
文字数 337文字
乗りこむ直前、藤音は桜花と十耶に向かって頭を下げた。
「二人にはすっかり世話をかけました」
「いやいや、たいしたことはしておりませぬ。お館と違い、狭い家ですが、よろしければまたいつでもお越しなされませ」
十耶はにこにこと笑って言葉を続ける。
「今度は不味 い薬湯ではなく、美味 い茶をたてますゆえ、ぜひ殿とご一緒においでくだされ」
藤音は黙ったまま、淡く微笑した。精一杯の返答だった。
駕籠の小窓が閉じられ、男たちが肩に担いで歩き出す。その横を刀を差した伊織が歩調を合わせて進んでいく。
月明かりの下、桜花と十耶に見送られ、藤音はひっそりと館に戻っていった。
「二人にはすっかり世話をかけました」
「いやいや、たいしたことはしておりませぬ。お館と違い、狭い家ですが、よろしければまたいつでもお越しなされませ」
十耶はにこにこと笑って言葉を続ける。
「今度は
藤音は黙ったまま、淡く微笑した。精一杯の返答だった。
駕籠の小窓が閉じられ、男たちが肩に担いで歩き出す。その横を刀を差した伊織が歩調を合わせて進んでいく。
月明かりの下、桜花と十耶に見送られ、藤音はひっそりと館に戻っていった。