第26話 とまどい
文字数 517文字
いきさつを述べて桜花は丁重に枝を差し出したが、藤音は侍女に目配せをするだけだ。
藤音の代わりに先ほどの年かさの侍女が、隼人の心づくしの八重桜の枝をつまらなそうに受け取った。
「そう、あの殿が……」
藤音は誰にともなく、ふっと冷笑をもらした
あれから隼人は一度も寝所には来ない。
当然だろう。いつ寝首を掻かれるかわからない妻のところになど、やって来る物好きな夫はいない。
微妙に敵意をはらんだ雰囲気にとまどう桜花に、藤音は問うた。
「で、おまえはあの殿の何?」
「え?」
質問の意味がわからなくて、桜花は眼をぱちぱちさせた。
「側女 ? まさか巫女を側室にはしないでしょう」
「ち、違いますっ」
桜花は耳まで真っ赤になって首を横に振る。
「わたくしは神官であった亡き父の後を継ぎ、九条家にお仕えしている巫女でございます。それに隼人さまは誠実なお方。ご正室となられた藤音さまの他には側室も側女もおりません!」
「ちょっと聞いてみただけよ。そんなにむきにならずともよいわ」
藤音は口もとに袖をあてて、おかしそうに笑う。
藤音の代わりに先ほどの年かさの侍女が、隼人の心づくしの八重桜の枝をつまらなそうに受け取った。
「そう、あの殿が……」
藤音は誰にともなく、ふっと冷笑をもらした
あれから隼人は一度も寝所には来ない。
当然だろう。いつ寝首を掻かれるかわからない妻のところになど、やって来る物好きな夫はいない。
微妙に敵意をはらんだ雰囲気にとまどう桜花に、藤音は問うた。
「で、おまえはあの殿の何?」
「え?」
質問の意味がわからなくて、桜花は眼をぱちぱちさせた。
「
「ち、違いますっ」
桜花は耳まで真っ赤になって首を横に振る。
「わたくしは神官であった亡き父の後を継ぎ、九条家にお仕えしている巫女でございます。それに隼人さまは誠実なお方。ご正室となられた藤音さまの他には側室も側女もおりません!」
「ちょっと聞いてみただけよ。そんなにむきにならずともよいわ」
藤音は口もとに袖をあてて、おかしそうに笑う。