第149話 孤独
文字数 545文字
時は流れ、浅葱はずっとひとりで生きてきた。
誰にも頼らず、誰をも信じず、孤独だけを友として。そういう運命 なのだと諦めにも似た気持ちで受け入れていた。
だが、何の前ぶれもなく出会いは訪れた。
「ある日、森に傷を負った男と若い女が落ちのびてきた。男の名は九条 辰人 、女は男の娘だった」
桜花は息を呑んだ。一度は切れた浅葱と九条家を結ぶ糸が、再びつながったのだ。
獲物を手に、浅葱は狩りから戻ってきたところだった。背後の草むらで物音がして反射的に身構えて振り返る。
そこには傷を負った壮年の男と、その男の体を全身で支えるようにして、ひとりの娘が立っていた。
娘はこちらを見つめたまま、声も出せず、凍りついたように動きを止めている。
怯えているのだろう。無理もない、こんな森の奥深くで異形の者に出会ってしまったのだから。
別段、何の感情も湧いてこなかった。
浅葱にとっては、森で兎や鹿に出くわしたのと同じ意味しか持たなかった。関わろうとせず、そのまま足早に通り過ぎようとした。
──あのう……もし。
声をかけられたのは自分だと気づくまで数秒かかった。
誰にも頼らず、誰をも信じず、孤独だけを友として。そういう
だが、何の前ぶれもなく出会いは訪れた。
「ある日、森に傷を負った男と若い女が落ちのびてきた。男の名は
桜花は息を呑んだ。一度は切れた浅葱と九条家を結ぶ糸が、再びつながったのだ。
獲物を手に、浅葱は狩りから戻ってきたところだった。背後の草むらで物音がして反射的に身構えて振り返る。
そこには傷を負った壮年の男と、その男の体を全身で支えるようにして、ひとりの娘が立っていた。
娘はこちらを見つめたまま、声も出せず、凍りついたように動きを止めている。
怯えているのだろう。無理もない、こんな森の奥深くで異形の者に出会ってしまったのだから。
別段、何の感情も湧いてこなかった。
浅葱にとっては、森で兎や鹿に出くわしたのと同じ意味しか持たなかった。関わろうとせず、そのまま足早に通り過ぎようとした。
──あのう……もし。
声をかけられたのは自分だと気づくまで数秒かかった。