第149話 孤独

文字数 545文字

 時は流れ、浅葱はずっとひとりで生きてきた。
 誰にも頼らず、誰をも信じず、孤独だけを友として。そういう運命(さだめ)なのだと諦めにも似た気持ちで受け入れていた。
 だが、何の前ぶれもなく出会いは訪れた。
「ある日、森に傷を負った男と若い女が落ちのびてきた。男の名は九条(くじょう)辰人(たつと)、女は男の娘だった」
 桜花は息を呑んだ。一度は切れた浅葱と九条家を結ぶ糸が、再びつながったのだ。
 獲物を手に、浅葱は狩りから戻ってきたところだった。背後の草むらで物音がして反射的に身構えて振り返る。
 そこには傷を負った壮年の男と、その男の体を全身で支えるようにして、ひとりの娘が立っていた。
 娘はこちらを見つめたまま、声も出せず、凍りついたように動きを止めている。
 怯えているのだろう。無理もない、こんな森の奥深くで異形の者に出会ってしまったのだから。
 別段、何の感情も湧いてこなかった。
 浅葱にとっては、森で兎や鹿に出くわしたのと同じ意味しか持たなかった。関わろうとせず、そのまま足早に通り過ぎようとした。
 ──あのう……もし。
 声をかけられたのは自分だと気づくまで数秒かかった。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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