第121話 黒い影
文字数 549文字
和臣は小屋の戸口を背にして立っていて、他に出入り口はない。
ゆっくりと近づいてくる和臣に、桜花はまた一歩、後ずさる。
「なぜ逃げるのです?」
背後は壁で逃げ場がない。まるで自分が追いつめられた獲物のような気がする。
さらに一歩、近づく和臣に桜花は息を呑んだ。
いつの間にか和臣の眼には、桜花がこれまで見たこともない、暗い、狂気じみた色が宿っていたのだ。
氷のような冷気が周囲に漂い、和臣の背後にゆらめくような黒い影を見た時。
和臣の腕が素早く動き、桜花の腕をつかむ。
次の瞬間、桜花は強引に抱きしめられていた。
「和臣さま !?」
懸命に抗うが、さらにきつく抱きしめられ、身動きが取れない。
「お離しください!」
宙に桜花の声が空しく響き、和臣の言葉が二重になって耳に入ってくる。
「親子して奪うか。伊織の母はわたしの母から父を奪い、今度は伊織がわたしから愛する者を奪うのか!」
身体の自由を奪われたまま、桜花は固い木の床に押し倒された。
自分の上に覆いかぶさってくる和臣の背後に、今度は明確に黒い影を見る。
鬼だ、と桜花は悟った。
封印を破った鬼が和臣に憑りついているのだ。
ゆっくりと近づいてくる和臣に、桜花はまた一歩、後ずさる。
「なぜ逃げるのです?」
背後は壁で逃げ場がない。まるで自分が追いつめられた獲物のような気がする。
さらに一歩、近づく和臣に桜花は息を呑んだ。
いつの間にか和臣の眼には、桜花がこれまで見たこともない、暗い、狂気じみた色が宿っていたのだ。
氷のような冷気が周囲に漂い、和臣の背後にゆらめくような黒い影を見た時。
和臣の腕が素早く動き、桜花の腕をつかむ。
次の瞬間、桜花は強引に抱きしめられていた。
「和臣さま !?」
懸命に抗うが、さらにきつく抱きしめられ、身動きが取れない。
「お離しください!」
宙に桜花の声が空しく響き、和臣の言葉が二重になって耳に入ってくる。
「親子して奪うか。伊織の母はわたしの母から父を奪い、今度は伊織がわたしから愛する者を奪うのか!」
身体の自由を奪われたまま、桜花は固い木の床に押し倒された。
自分の上に覆いかぶさってくる和臣の背後に、今度は明確に黒い影を見る。
鬼だ、と桜花は悟った。
封印を破った鬼が和臣に憑りついているのだ。