第94話 奇妙な噂
文字数 614文字
「奇妙な噂が流れています。藤音が夜な夜な海辺をさまよっていると」
まさか、と桜花は息を呑んだ。
とてもすんなりとは信じられない。
「夜ということは、隼人さまは藤音さまとご一緒ではないのですか?」
「いえ、わたしとは寝所はずっと別なので……」
桜花と伊織は黙って顔を見あわせた。二人の間には夫婦 として越えられない溝が、まだ横たわっているのだ。
「では、侍女たちは? 藤音さまには如月さまを初め、常に侍女たちがおそばについておられるはずですが」
「わたしもたずねてみましたが、侍女たちは決してそのようなことはない、と口をそろえて否定していました。
特に如月は『殿はわたくしが藤音さまを夜中に放っておくような怠慢をすると仰せですか !?』と烈火のごとく怒っていました」
そうだろう、と桜花も思う。
如月は忠義心厚いしっかり者だ。務めを怠り、夜中に藤音が外へ出るのを放置しているとは考えにくい。
「ですが、村の者が何人も藤音らしき姿を見たと証言していて……」
言いずらそうに隼人は一度、言葉を切る。
「その姿は、まるで物の怪に憑りつかれているようだと」
桜花はああ、と得心した。だから内密に巫女である自分が呼ばれたのだ。
「藤音さまにはお会いになれますでしょうか」
とにかく様子を見てみなければ対処のしようがない。
まさか、と桜花は息を呑んだ。
とてもすんなりとは信じられない。
「夜ということは、隼人さまは藤音さまとご一緒ではないのですか?」
「いえ、わたしとは寝所はずっと別なので……」
桜花と伊織は黙って顔を見あわせた。二人の間には
「では、侍女たちは? 藤音さまには如月さまを初め、常に侍女たちがおそばについておられるはずですが」
「わたしもたずねてみましたが、侍女たちは決してそのようなことはない、と口をそろえて否定していました。
特に如月は『殿はわたくしが藤音さまを夜中に放っておくような怠慢をすると仰せですか !?』と烈火のごとく怒っていました」
そうだろう、と桜花も思う。
如月は忠義心厚いしっかり者だ。務めを怠り、夜中に藤音が外へ出るのを放置しているとは考えにくい。
「ですが、村の者が何人も藤音らしき姿を見たと証言していて……」
言いずらそうに隼人は一度、言葉を切る。
「その姿は、まるで物の怪に憑りつかれているようだと」
桜花はああ、と得心した。だから内密に巫女である自分が呼ばれたのだ。
「藤音さまにはお会いになれますでしょうか」
とにかく様子を見てみなければ対処のしようがない。