第14話 天女の舞い

文字数 800文字

 唯一、華やかだったのは、城の中庭にしつらえられた舞台での舞いの奉納だった
 夕闇の中、篝火に照らされながら。和楽の音色に合わせ、神楽鈴(かぐらすず)を持った巫女装束の桜花が優雅に舞っていく。
 この少女は巫女であり、舞いの名手でもあるのだ。
「おお、見事な舞いじゃ」
「さすがは天宮(あまみや)の巫女・桜花どの」
「まさに天女のごとき舞い姿ですな」
 同席した家臣たちからも次々と称賛の言葉が口をついて出る。
 和臣と伊織もまた若い家臣たちの席に座り、その姿を熱心に見つめていた。
 微笑しながら和臣は、美しいというよりは愛らしい姿を眼で追っていく。
 この少女は何と軽やかに舞うのだろう。
 本当に天女の羽衣をまとっているかのようだ。天宮の巫女は天女の末裔(まつえい)と呼ばれるのも、うなずける気がする。
 一方、伊織は兄とは別の思いを抱いていた。
 彼は桜花がぎりぎりまで舞いの稽古をしていたことを知っている。だから、どこかで失敗せねばよいが、と気になって仕方ないのだ。
 その桜花は広間に視線を向けたが、自分の位置からでは奥まった場所に座っている隼人も花嫁の姿もよく見えなかった。
 舞いながら、若い二人が幸せになれるようにと、ただ祈るばかりだ。

 婚礼の席に巫女の舞いの奉納。神事を重んじるのは九条家の伝統である。
 それには天宮と桐生、二つの家系が関係していた。
 遠い昔、この国に妖魔の災い降りかかりし時。天女がその魔を封じ、人に姿を変えてこの地に住んだ、それが天宮家の始祖(しそ)
 そして天女を守護する龍もまた人となって地上に降りた、それが桐生家。
 言い伝えがどこまで真実であるかは別としても。以来、天宮は神官や巫女として、桐生は武人として九条家に仕え、草薙を守ってきたのである。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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