第56話 直接に
文字数 537文字
「せっかくきれいな花を咲かせた鉢植えです。隼人さまがご自分でお届けなさいませ」
「でも、わたしが行っても……」
「ご心配には及びません。如月さまはもうお味方ですわ」
先日、主の謝罪に乗りこんできて以来、如月は藤音のために隼人と盟約を結んだようなものである。
よもやけんもほろろに追い返される羽目にはなるまい。
「隼人さまがご自分で直接お渡しすること、それこそが藤音さまにとって一番のお薬になるかと存じます」
「しかし……」
鉢植えと桜花を交互に見比べ、隼人はまだためらっている。
「では、途中まで桜花もご一緒しましょう。隼人さまが藤音さまにお会いになられたら、わたくしは姿を消しますゆえ。そうと決まれば、お早く」
「あ、桜花どの!」
すたすたと歩き出す桜花の後を、鉢植えをかかえ、隼人があわてて追いかける。
そこまではよかったが、桜花は重要なことを忘れていた。
昨日はそのまま祖父の屋敷へ行ってしまったので、自分の部屋くらいしか館の間取りがわからないのだ。
途中で歩みを止め、桜花はきまり悪げに振り返った。
「あのう、藤音さまのお部屋はどちらでございましょう……?」
「でも、わたしが行っても……」
「ご心配には及びません。如月さまはもうお味方ですわ」
先日、主の謝罪に乗りこんできて以来、如月は藤音のために隼人と盟約を結んだようなものである。
よもやけんもほろろに追い返される羽目にはなるまい。
「隼人さまがご自分で直接お渡しすること、それこそが藤音さまにとって一番のお薬になるかと存じます」
「しかし……」
鉢植えと桜花を交互に見比べ、隼人はまだためらっている。
「では、途中まで桜花もご一緒しましょう。隼人さまが藤音さまにお会いになられたら、わたくしは姿を消しますゆえ。そうと決まれば、お早く」
「あ、桜花どの!」
すたすたと歩き出す桜花の後を、鉢植えをかかえ、隼人があわてて追いかける。
そこまではよかったが、桜花は重要なことを忘れていた。
昨日はそのまま祖父の屋敷へ行ってしまったので、自分の部屋くらいしか館の間取りがわからないのだ。
途中で歩みを止め、桜花はきまり悪げに振り返った。
「あのう、藤音さまのお部屋はどちらでございましょう……?」