第166話 解けた呪縛

文字数 575文字

 鬼の呪縛が解けたのだろう、館のあちこちで人の声や物音が聞こえてくる。
 部屋の中で真っ先に眼を覚ましたのは如月だった。
 如月は額に手を当て、二、三度、軽く頭を振ると、あたりの惨憺たる様子に唖然とした。
「あらあら、いったい何事です、このありさまは。盗賊でも押し入ってきましたの?」
 言われて部屋の中を見渡せば。
 伊織が派手に立ち回りをやったせいもあって、襖は外れ、障子は破れ、調度品もひっくり返り、要するにめちゃくちゃになっているのだ。
 桜花を腕に抱いたまま、伊織は苦笑交じりに答えた。
「盗賊ではありませんが、あえて言うなら鬼退治をしたのですよ、如月どの」
「何ですって?」
 如月はさっぱりわけがわからないといった顔をする。
 そんな説明の仕方では、まるでおとぎ話のようだと思ったが、桜花は何も言わずにおいた。 
 本当に浅葱の魂を救ったのは、自分たちではなく唯姫なのだから。
 如月は口もとに手をやって、うっほん、と咳払いをする。
「お二組とも仲睦まじいのは結構ですが、まだ陽も高うございます。時と場所をお考えなさいませ」 
 改めて自分たちの姿を見ると。それぞれに人目もはばからず、抱きあう形になっていて、四人は赤くなってぱっと身を離す。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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