第10話 和睦の証

文字数 564文字

 広間にいる人々の注目を集めながら、さらに結城は続ける。
「草薙の当主と白河当主のご息女の縁組なら、この度の和睦の確たる証となりましょう」
「なるほど、その手がありましたか」
 感心する家臣たちをよそに、思いがけない成り行きにあわてふためいたのは隼人である。
「ち、ちょっと待った。何もそこまでしなくても……」
「いや、これは実によき考えですぞ。さすがご家老」
「だが、わたしはまだ嫁をもらう気など……」
「何を言われますか! もう殿も家督を継がれた身、いつまでもおひとりでおられずに、きちんと奥方を迎えねば!」
「しかし相手の姫の方がわたしより年上だし……」
「たかが三歳くらいの年の差など、些細なことではありませぬか」
 隼人は救いを求めるように年若い家臣たちを見たが、彼らは同情しつつも、古株に逆らってまでは助け舟が出せないでいる。
「それとも殿はどなたか好いた娘御がおありかな」
「別に、そういうわけではないけれど」
「なに、ご正室とはあくまで表向き。気に入った娘がおれば側室にでもなさればよろしい」
「そのようなあざといこと……」
 隼人は唇を引き結んだ。この生真面目な少年には、そんな考え方は到底、容認できるものではない。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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