第178話 黄泉の境界
文字数 510文字
伊織の手を取って立ち上がらせながら、
「龍の血を継ぐ者よ、わたくしが境界まで送りましょう。くれぐれも気をつけて。そなたたち二人は生きねばなりませぬ」
守護石と刀を身につけた伊織の手に、天女はたおやかな白い手を重ねた。
「眼を閉じなされ──」
言われるままに瞼を閉じる。
とたんに意識がどこかに連れ去られるような感覚に襲われ、眼を開けると伊織は荒涼とした風景の中にいた。
あたり一面のごつごつした岩の灰色の大地。絶え間なく冷たい風が吹きつけ、霧が流れていく。
ここが天女が話していた、現世と黄泉の境界なのだろうか。
伊織は腰に差した刀に眼をやった。浅葱と対戦した時の輝きは失せ、今は伊織が愛用しているただの刀でしかない。
風に流される霧の合間、大きな洞窟がぽっかりと口を開けているのが見える。
伊織は感じた。黄泉への入り口だ。桜花はこのどこかにいる。
洞窟の中はすべての生命を呑みこんでしまうかのように深い闇だけが広がっている。
湧き上がってくる畏怖をおさえ、ごくりと唾を飲みこむと、伊織は中へ踏み出した。
「龍の血を継ぐ者よ、わたくしが境界まで送りましょう。くれぐれも気をつけて。そなたたち二人は生きねばなりませぬ」
守護石と刀を身につけた伊織の手に、天女はたおやかな白い手を重ねた。
「眼を閉じなされ──」
言われるままに瞼を閉じる。
とたんに意識がどこかに連れ去られるような感覚に襲われ、眼を開けると伊織は荒涼とした風景の中にいた。
あたり一面のごつごつした岩の灰色の大地。絶え間なく冷たい風が吹きつけ、霧が流れていく。
ここが天女が話していた、現世と黄泉の境界なのだろうか。
伊織は腰に差した刀に眼をやった。浅葱と対戦した時の輝きは失せ、今は伊織が愛用しているただの刀でしかない。
風に流される霧の合間、大きな洞窟がぽっかりと口を開けているのが見える。
伊織は感じた。黄泉への入り口だ。桜花はこのどこかにいる。
洞窟の中はすべての生命を呑みこんでしまうかのように深い闇だけが広がっている。
湧き上がってくる畏怖をおさえ、ごくりと唾を飲みこむと、伊織は中へ踏み出した。