第84話 鳥籠

文字数 522文字

 あたふたと入ってくる桜花に、祖父が呑気に声をかけてくる。
「おお、桜花」
「ただいま戻りました」
「おや、その手の中のものは何じゃ?」
「小鳥です。傷ついて弱っていたところを見つけました。どこかに空いた鳥籠はありませんでしょうか」
「確か、西側の使っていない部屋のどこかにあったはずじゃが」
「では探してまいります」
 待ちなさい、と祖父が止めに入る。
「そなたはまだ履物も脱いでいないではないか。何をあわてておる。どれ、小鳥はわしに寄こしなさい。鳥籠は下働きの者に探させよう。まずはきちんと上がりなさい」
「は、はい」
 小鳥を祖父の手に渡して、桜花は草履を脱ぎ、そろえて置く。
 安心だと感じているのだろう、小鳥は祖父の手の中でもおとなしく包まれている。
「それと、お願いがございます。浜辺に住む漁師の子供が、鬼封じの岩の瘴気を浴びて苦しんでおります。
 熱は下げることができましたが、まだしばらくは体調は回復しないはず。
 後ほど家の者が取りに来ると思いますので、おじいさまに薬草の調合をしていただきたいのですが……」
「そのくらいなら造作もないこと。この年寄りでもまだまだ人の役に立てるというものじゃ」
 預かった小鳥を手に祖父が軽く笑うと、桜花はほっと息をついた。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み