第98話 もどかしさ
文字数 584文字
「もし藤音さまが出かけられるとしても、もっと遅い時刻になってからだろう。何かあったらすぐ呼ぶから、桜花はその時まで休んでいるといい」
ありがとう、と桜花は素直に感謝を伝えた。正直、身体がだるくて頭が重い。
「なら、少し休ませてもらうわね」
部屋の奥に移動しようと立ち上がった時だ。軽い眩暈 がして桜花はふらっとした。
「桜花 !?」
とっさに伊織は腕を伸ばし、支えようとしたが、
「わわっ!」
「きゃっ!」
均衡を崩し、二人は折り重なるように畳の上に倒れこむ。
互いの鼓動が伝わり、ひととき、息がかかるほど間近で瞳を見かわす。
桜花が腕の中にいる──伊織は不意に、華奢な身体を抱きしめたい衝動にかられた。
もしも、このまま抱きしめたら。
桜花をどこへもやらずに……他の男に渡さずにすむだろうか。
「……伊織?」
が、桜花の無垢な声が冷静さを取り戻させ、伊織は感情を押し殺した。
桜花は九条家に仕える巫女であり、しかも今は自分の兄に求婚されている身だ。軽はずみな真似は許されない。
「す、すまん」
あわてて起き上がり、桜花の手を取る。桜花は黙って身体を起こし、眼を伏せる。
胸の音は正直にどくんどくん鳴っているのに、言葉にできないもどかしさ。
ありがとう、と桜花は素直に感謝を伝えた。正直、身体がだるくて頭が重い。
「なら、少し休ませてもらうわね」
部屋の奥に移動しようと立ち上がった時だ。軽い
「桜花 !?」
とっさに伊織は腕を伸ばし、支えようとしたが、
「わわっ!」
「きゃっ!」
均衡を崩し、二人は折り重なるように畳の上に倒れこむ。
互いの鼓動が伝わり、ひととき、息がかかるほど間近で瞳を見かわす。
桜花が腕の中にいる──伊織は不意に、華奢な身体を抱きしめたい衝動にかられた。
もしも、このまま抱きしめたら。
桜花をどこへもやらずに……他の男に渡さずにすむだろうか。
「……伊織?」
が、桜花の無垢な声が冷静さを取り戻させ、伊織は感情を押し殺した。
桜花は九条家に仕える巫女であり、しかも今は自分の兄に求婚されている身だ。軽はずみな真似は許されない。
「す、すまん」
あわてて起き上がり、桜花の手を取る。桜花は黙って身体を起こし、眼を伏せる。
胸の音は正直にどくんどくん鳴っているのに、言葉にできないもどかしさ。