第44話 似たもの同士

文字数 460文字

 元服をすませると、伊織はほどなく城に上がった。和臣は城下の屋敷から通っているが、伊織はもう何年も城住まいである。もっともその方が気楽だと本人も言っているのだが。
 桜花はそんなことをつらつらと考えながら、全く別の話題を口にした。
「明日はもう遠海に出発よ。仕度はできたの?」
 これからだ、と伊織はあっさり答える。
「ちゃんと用意しておかないと、当日になってあわてるわよ」
「かまわん。どうせたいしたものは持っていないのだから」
「わたしと同じようなことを言うのね」
「桜花もか? はは……ないもの同士というわけか」
 がやがやと明日の準備で忙しい城内で、伊織が呑気に笑った。

 一方、勤めを終えて家に帰るなり、和臣は母の姿を探した。今日こそは釘をさしてやらねば。
 探すまでもなく、すぐに霧江は顔を見せた。
「お帰りなさい、和臣」
「ただいま戻りました」
 挨拶を交わし、刀を母に預けると、間髪入れず和臣は抗議めいた口調で言った。
「母上、いい加減にしてください」
 刀をしまっていた霧江は何のことかわからずに、怪訝(けげん)そうな顔で和臣の方を振り返る。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み