第159話 二つの刀

文字数 435文字

 刀を構えながら駆け寄り、伊織は片手で桜花を抱き起す。
「大丈夫か!?
 (あえ)ぎながら喉もとを押さえ、桜花はかろうじてうなずいてみせた。
 言葉の代わりに手を伊織の手に重ね、まっすぐに見つめる。
 今の浅葱には憎悪と復讐しかない。
 慟哭に閉ざされた心。現世ではその魂は救われない。
 浅葱を救う方法はただひとつ、唯姫のいるところへ送ってやることだけだ。
 自分にまなざしを向ける桜花を、伊織は無言で見つめ返した。それは伊織の知っている、よく笑って、そのくせ涙もろい少女ではなかった。
 揺るがぬ強い意志を秘めた、破魔の者。
 いつの間に桜花はこんなに大人びていたのだろう。
 桜花の肩にそっと手をかけると、伊織は決然と立ち上がった。
「参る!」
 正面から伊織は猛然と挑みかかり、浅葱もまた憎悪に彩られた漆黒の刃をかざす。
 激しくぶつかりあう聖邪二つの刀の威力はほぼ互角。
 が、鬼の尋常ならざる敏捷さと強靭さに、伊織の方が苦戦を余儀なくされている。強い憎悪の念が浅葱の力を増幅させているのだ。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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