第160話 白き光

文字数 475文字

「たかが昨日や今日、力に目覚めた小娘と若造ごとき、我の敵ではないわ!」
 浅葱は伊織の刀を薙ぎ払い、斬りつけてくる。漆黒の刃が肩を切り裂き、伊織は痛みに歯を喰いしばる。
「伊織!」
 桜花は駆け寄りたい衝動を懸命に押しとどめた。相手が浅葱では自分が飛び出していったところで足手まといになるだけだ。
 額を大粒の汗が流れ、伊織は肩で大きく息をついた。魔剣が負わせた傷は身を蝕み、体力を奪っていく。
 このままでは伊織が……。
 唇を引き結び、祈るように両手を握りしめた時だ。突然、桜花の前に白く輝く光が出現した。
 桜花の力ではない。かといって魔でもない。不思議な光は暖かく輝き、桜花の心に思惟(しい)を伝えてくる。
 ──あなたは……。
 愛するがゆえの切ないまでの想い。その主の願いを知り、受け入ると、桜花は胸に両手をあてて眼をつむった。
 たちまち白い光が全身をおおう。
 白き光をまとった桜花の身体は宙を舞い、ふわりと浅葱と伊織のかたわらに降り立つ。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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