第66話 刀だけでは

文字数 367文字

「さっき言っていた家の伝承とか、魔封じとかの話だが」
 桜花は黙って先を待つ。
「できるだけ早く、祖父どのが都合のいい時に、話を聞く機会を作ってくれないか」
 つい先刻までは家の伝承など興味もなくて、鬼などと言われてもおとぎ話くらいにしか考えていなかった。
 が、眼の前で起きた異変に、魔物の存在を信じないわけにはいかなかった。
 呑気に知らないではすまされない。
 もし自分に何か「力」があるのなら、理解して使いこなせるようにならなければ。
 今のままでは桜花はたったひとりで鬼に立ち向わなくてはならない。
 こんな華奢な少女が背負わされた重責に、伊織は唇を噛みしめた。
 相手が「魔」だというのなら。刀だけでは、桜花を守りきれない──。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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