第111話 駕籠
文字数 431文字
桜花の姿を認めると、伊織は声をひそめて報告した。
「隼人さまにはすべてお伝えして、駕籠 を用意した。できるだけ人目につかないよう、今夜のうちに藤音さまを九条の館にお連れする」
確かに、朝になって館に奥方がいなかったら、大変な騒ぎになるだろう。
「藤音さまの侍女たちは?」
「今はみな眼を覚ましている。薬師の話では、原因はわからぬが一時的なもので大事ないようだ。如月どのは一緒に来たがっていたが、まだ本調子ではないので、館で待っている」
「そう……よかった」
桜花は胸をなでおろした。あの時はとにかく藤音を追うのに精一杯で、如月たちがどうなったか、ずっと気にかかっていたのだ。
屋敷の門の前に迎えの駕籠が待機しており、担ぎ手の男たちは揃って寡黙だった。聡 い隼人のことだ。口の固い者を選んだのだろう。
藤音は伊織に手を取られ、駕籠に乗りこんでいく。
「隼人さまにはすべてお伝えして、
確かに、朝になって館に奥方がいなかったら、大変な騒ぎになるだろう。
「藤音さまの侍女たちは?」
「今はみな眼を覚ましている。薬師の話では、原因はわからぬが一時的なもので大事ないようだ。如月どのは一緒に来たがっていたが、まだ本調子ではないので、館で待っている」
「そう……よかった」
桜花は胸をなでおろした。あの時はとにかく藤音を追うのに精一杯で、如月たちがどうなったか、ずっと気にかかっていたのだ。
屋敷の門の前に迎えの駕籠が待機しており、担ぎ手の男たちは揃って寡黙だった。
藤音は伊織に手を取られ、駕籠に乗りこんでいく。