第111話 駕籠

文字数 431文字

 桜花の姿を認めると、伊織は声をひそめて報告した。
「隼人さまにはすべてお伝えして、駕籠(かご)を用意した。できるだけ人目につかないよう、今夜のうちに藤音さまを九条の館にお連れする」
 確かに、朝になって館に奥方がいなかったら、大変な騒ぎになるだろう。
「藤音さまの侍女たちは?」
「今はみな眼を覚ましている。薬師の話では、原因はわからぬが一時的なもので大事ないようだ。如月どのは一緒に来たがっていたが、まだ本調子ではないので、館で待っている」
「そう……よかった」
 桜花は胸をなでおろした。あの時はとにかく藤音を追うのに精一杯で、如月たちがどうなったか、ずっと気にかかっていたのだ。
 屋敷の門の前に迎えの駕籠が待機しており、担ぎ手の男たちは揃って寡黙だった。(さと)い隼人のことだ。口の固い者を選んだのだろう。
 藤音は伊織に手を取られ、駕籠に乗りこんでいく。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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