第46話 潮の匂い

文字数 415文字

 母の気性はよく知っている。こうなると白状するまでは放してもらえまい。
「誰です? 話してくれなければ、賛成も反対もしようがないでしょう」
 和臣は覚悟を決め、思い切って告げた。
「家柄なら充分に釣り合いはとれていますよ。天宮の桜花どのです」

 翌日。出発は早朝の涼しいうちだった。
 草薙は小さな国である。朝早く城を出れば、徒歩でも昼頃には遠海にある館に到着する。
 ただし、体調を崩している藤音と付き添いの如月、年かさの家臣たちは夕刻、涼しくなってから駕籠(かご)で現地へと向かう。
 館には先に下働きの者たちが入っていて、滞在する者たちを迎え入れる準備がなされている。
 行列というほどでもないが、かなりの人数の移動である。
 遠海の村が近くなってくると、風に潮の匂いが混じり、海に来たのだと実感させてくれる。
 そもそも九条家は遠海が発祥の地だ。以前は城もこの地にあったという。
 何らかの事情で城は今の場所に移り、遠海には海辺の館だけが残されている。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み