第65話 濃紺
文字数 526文字
瘴気から離れたせいだろう、少しずつではあるが呼吸が整ってくる。
いつしか陽はすっかり沈み、空は紫から濃紺へと色を変えようとしている。
ようやく呼吸が平常に戻ると、桜花はゆっくりとまぶたを開けた。気分もさっきよりはだいぶ良くなってきている。
「落ち着いたか?」
「ええ、何とか……」
耳にかかる髪をかきやり、ありがとう、と弱々しく笑う。
「あなたが一緒にいてくれてよかった」
もし自分ひとりだったら、あの場で身動きできなくなっていただろう。
「もう少し休ませて。そうしたら屋敷まで歩いていけるから」
「俺のことは気にしなくていい。無理しないで休め」
もたれた体から伝わってくる伊織のぬくもりが心地よく、辛さを癒してくれる。
桜花は大きく息を吐いて、額に手を当てた。
封印されているはずなのに、鬼の瘴気があれほど強いとは。
祖父に伝えて何か策を講じなくては。
でも、どんな手だてがあるというのだろう。鬼を封じた天女はもういない。その末裔 と言われる自分には何の力もない。
「桜花」
真剣な口調で名を呼ばれ、桜花は伊織を見上げた。
いつしか陽はすっかり沈み、空は紫から濃紺へと色を変えようとしている。
ようやく呼吸が平常に戻ると、桜花はゆっくりとまぶたを開けた。気分もさっきよりはだいぶ良くなってきている。
「落ち着いたか?」
「ええ、何とか……」
耳にかかる髪をかきやり、ありがとう、と弱々しく笑う。
「あなたが一緒にいてくれてよかった」
もし自分ひとりだったら、あの場で身動きできなくなっていただろう。
「もう少し休ませて。そうしたら屋敷まで歩いていけるから」
「俺のことは気にしなくていい。無理しないで休め」
もたれた体から伝わってくる伊織のぬくもりが心地よく、辛さを癒してくれる。
桜花は大きく息を吐いて、額に手を当てた。
封印されているはずなのに、鬼の瘴気があれほど強いとは。
祖父に伝えて何か策を講じなくては。
でも、どんな手だてがあるというのだろう。鬼を封じた天女はもういない。その
「桜花」
真剣な口調で名を呼ばれ、桜花は伊織を見上げた。