第113話 生き方

文字数 586文字

 翌日は朝からどんよりした曇り空。
 今にも雨粒が落ちてきそうだ。
 出仕前、朝餉を取り、着替えた桜花は鳥籠の前に座っていた。
「ごめんね、みゆ。あまりかまってあげられなくて」
 怪我をして弱っていたみゆを保護したあたりから、何かと身辺が忙しくなって、心ならずも世話は祖父に任せきりになってしまっている。
 みゆは小首をかしげ、つぶらな黒い瞳でこちらを見つめている。
「不思議ね、あなたは人の言葉がわかるみたい。ううん、言葉だけでなく気持ちも」
 自分でもよくわからないけれど、なぜかそんな気がしてならない。
 怪我はすっかり治り、餌もよく食べるようになっている。この調子なら近いうちに空へ帰せるだろう。
「あなたはいいわね、みゆ」
 出仕前のひととき、桜花は小鳥にしみじみと話しかけた。
「元気になれば、自由に空を羽ばたくことができるんだもの」
 それに比べて自分は。
 桜花は朝から盛大にため息をついた。
 考えなければいけない難問が山積みになっている。
 特に和臣の求婚。いくら返事は急がないと言われても、いずれは決めなければならない。
 今まで巫女として生きるのが当然だった桜花は、辞して嫁ぐことはできると教えられても、いきなり簡単に生き方を変えられるものではない。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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