第28話 血路を開け!

文字数 4,576文字

「そっちも終わったみたいだね!」
「ええ、結構きつかったけどね。何とかなったわ~」

 サラザとエリエはお互いの無事を確認するかの様に互いに手を掴むと、2人は嬉しそうに微笑み合った。

 辺りに派手に散らばる骨を見渡している。
 部屋に入った時には気付かなかったが、足の踏み場もないほどのおびただしい量の骨が散らばっていた。

「まったく。あの数を良く倒せたもんだな」
「ふっ。デイビッドよ……お前も少しなまったか?」

 デイビッドがむっとしながら声の方を向くと、そこにはマスターが立っていた。

 マスターは少し不満そうな顔で腕組しながら、デイビッドを見ている。

「昔、お前と手合わせした時は、もっと獣のような男だったのにな……」
「そんな事言っても。マスターだって同じだろ? 可愛い女の子連れてさ」

 言われてばかりではいられないと言わんばかりに、マスターの隣に寄り添っているカレンに視線を向けて、デイビッドが毒づく。
 
「確かに、儂もこいつが可愛くて仕方ない。もちろん、弟子としてだが……」
「――か、可愛いだなて……そんな……師匠。なっ、なに言ってるんですか!」

 顔を真っ赤に染めてもじもじと体を揺らすカレン。

 彼女の動作を見ていると、内心では物凄く嬉しそうだ――。

 2人がそんなカレンを見て笑っていると、倒したはずのスケルトンの骨が一斉にカタカタと音を立てて再び集まりだした。

 その場にいた7人は、慌てて一箇所に固り戦闘態勢を取る。しかし、その場にいた殆どの者が動揺を隠しきれない様子で、再びスケルトンの形になっていく骨を見つめている。

「これは、どういうことだ!?」
「分からないわ~。でも、この状況はやばいってオカマの勘が言ってる!」
「オカマとかはどうでもいいんだけど、これってちょっとまずいよ~。どうしてボスでもないのに再生とかできるの!?」

 デイビッド、サラザ、エリエは慌てふためきながら、互いの顔を見合っている。
 動揺するのも無理はないだろう。本来の仕様ならば、撃破したモンスターは撃破時のエフェクトで光となって空へと舞い上がっていく。

 しかし、再生するというのは一部のしかもボス級のモンスターにのみ与えられた特権のようなものだった。
 まさかそれが、こんな低級のしかもスケルトン如きに適用されるなんて誰も考えもしていなかったのだ。

「ほう、カレンよ。奴ら、まだやられたりないらしいな……」
「はい、師匠。良い鍛錬になりそうです!」

 それとは対照的に、マスターとカレンは再び象られていくスケルトン達を見つめ嬉しそうに笑っている。 
 
「……エミルさん」

 星は不安そうな顔でエミルを見上げると、エミルの手が頭に乗った。

 だが、彼女のその手は微かに震えている。

「大丈夫……大丈夫よ星ちゃん。私から離れないで!」
「は、はい……」

 エミルはぎこちない笑みを浮かべながらそう言った。
 その言葉に星は小さく頷くと、エミルの足にぎゅっとしがみつく。

 エミルは大丈夫とは言っていたが、星も内心は今の状況がまずいということは分かっていた。
 何事もなかったかのように蘇った敵――その圧倒的な物量の違いは、子供の星にも容易に理解できるものだった。

(このままじゃ……全滅する。でも、私に何ができるのかな……?)

 星はそんなことを考えながら、不安そうに目の前を塞ぐようにして立っているスケルトン達を見た。

 スケルトン達は再び星達に襲い掛かり戦闘になったが、前の戦闘の時とは違い。今度は呆気無く倒すことができた。

 前回と今回の戦闘の違いは、皆が密集して戦ったことでお互いがお互いをカバーし合い。効率よく敵を撃破できたのが大きな要因だろう。

 そしていつしか、スケルトンは最後の1体を残すのみとなった。

 だが、スケルトン達は一度蘇ったのだ。もう一度蘇ってくると考えるのが普通だろう。しかし、ここにいるプレイヤーのほぼ全員が高レベルプレイヤーの集まり、同じ失敗を何度も犯すほど愚かでない。

「よし。ラスト1匹は殺さずに捕らえるんだ! おそらく、それでもう復活できなくなるはずだ!」

 デイビッドがそう叫ぶと、彼の前を横切ったマスターが自分の道着の黒帯を外し、それを敵に向かって投げ敵を巻き付け縛りつける。

「よし! これでしまいだな!!」

 マスターは満足そうに頷くと、帯に包まれぐるぐる巻になったスケルトンの元へと歩いていった。

 これでやっと終わった――そう。その場にいた誰もが思っていた。その時、星がスケルトンのHPゲージが徐々に減っていることに気づく。

 マスターの帯での締め上げが強すぎたのだ――。

「――マスターさん! モンスターが死んじゃいます!!」
「なにっ!?」

 その声に気付いたマスターは慌てて帯を解こうと帯に触れた直後、スケルトンはまたバラバラの骨の姿へと戻ってしまった。

 マスターは慌てて骨になったスケルトンから離れ、周りに居たメンバーに密集するように指示を出す。
 それと時を同じくして、またスケルトン達が復活を終える。その光景に、その場にいたメンバー全員が落胆の色を隠せない。

 それもそうだろう。すでに2回も敵に復活されている。こちらのHPはまだ全然余裕があるものの、体力の方がもう限界に近付いていた。

「はぁ、はぁ。また復活か……なら何度でも骨に戻してやるよ……うおおおおおおおッ!!」
「ちょっと! デイビッド、闇雲の突っ込んでもだめ……」

 エミルが制止する声も聞かずに、デイビッドは刀を構えて疾走してがむしゃらにスケルトンの群れに飛び込んでいった。

 それを見たマスターは道着の帯を締め直すと。

「まったく。猪武者なのは相変わらずか――カレン! 儂は奴の援護に入る。ここの者達を頼むぞ? なるべく体力を消耗しないように冷静に戦え。良いな?」
「師匠!!」

 先に敵の中に飛び込んでいったデイビッドの後を追い、そう言い残したマスターも敵の中へと消えていった。

 その様子を見て触発されたのか、サラザが持っていたバーベルを肩に担ぐ。

「私も突っ込むわ! オカマは男と女両方の力を使えるの。オカマの体力舐めんじゃないわよ!!」
「ちょっと、サラザ!」

 その場の雰囲気に当てられたサラザがエリエの止める声も聞かずにバーベルを振り回しながら、2人を追いかけて行ってしまう。

 まあ、ゲームプレイヤーとして、他の者に遅れは取れないという闘争本能のようなものなのだろう。

 ここに集まったプレイヤー達は、皆個々の能力が高過ぎる為に連携を取るのが難しい。
 それが低レベルのモンスターならば、本能的に連携するよりも個々で撃破した方がいい。と直感で判断してしまうのだ。

「もう! 皆、勝手なんだから!」

 地面を踏みつけ憤り両手を振り下ろすエリエに、エミルが声を掛ける。

「エリー。あの3人ならきっと大丈夫よ。それよりこっちはこっちの心配をしないと……」
「……そうだね。でもさ、エミル姉。倒せない敵とどう戦えばいいの?」

 エミルに不安そうな表情で尋ねてきたエリエに「そうねぇ……」と顎の下に手を当て考える仕草をしたかと思うと、彼女はそのまま黙り込んでしまう。
 今まで長くこのゲームをしていたが、彼女もこんな状況に陥ったことがなく。エミルでさえも、対処方法が見つけられずにいた。

 普通ならば、敵を全滅させれば次のフィールドへ行く扉が開くのだが、ここのスケルトンのように何度でも蘇る敵への攻略法が未だ確立されていないのだ。

 っと言うよりも、前例のない事態に進行も退路も封じられたこの情況。今はまだ余裕があったとしても、無限に復活を繰り返されれば体力と精神力の両方を削り取られ、いずれは回復用のアイテムが尽きて万事休す――という最悪のシナリオしか頭に浮かんでこない。

 しかもそれに加えて、今はログアウトが行えないという状況だ。
 普段なら緊急時は、ダンジョン攻略が無理と判断した時点で、ログアウトするか死ぬかして近くの街に戻るのがセオリーだった。

 しかし、今の状況ではその両方とも許されない。だとすると、なんとしてもこのダンジョンを攻略するしか脱出する方法はないということなのだろう。 
 
(エミルさん。どうしよう……私に何かできるとしたら、いったい。どうしたらいいの?)

 額から汗を流しながらも必死に苦悩しているエミルの顔を見て、星は何か自分にもできないかと辺りを見渡した。 

 きょろきょろと辺りを見ていると、エリエの叫ぶ声が耳に飛び込んできた。

「――星! 敵がきてるよ!!」

 すると、星の後ろからスケルトンが剣を振り上げ、今にも攻撃してくる姿が視界に飛び込んでくる。

 星は慌てて持っていた盾でその攻撃を防ぐと、攻撃を弾かれバランスを崩したスケルトンに、エリエのレイピアが炸裂する。ガシャンッという音とともにスケルトンは崩れ落ち再び骨に戻る。

 星がそれを見てほっと息を吐くと、エリエの怒りを含んだ声が響いた。

「星! 今は戦闘中なんだよ? 敵から目を離したらダメでしょ!」
「――ひっ! ……はい。ご、ごめんさい……」

 星は肩をすぼめるように、体を小さくするとしょんぼりと俯く。
 そんな2人のやりとりを見ていたエミルが「エリーもあんまりかりかりしないの!」と少し強めの口調で言った。

 すると、エリエは「かりかりなんてしてない」と口を尖らせ、再びスケルトンとの戦闘に戻る。
 まあ、エリエも思い通りにいかない仲間達の行動と終わりの見えない戦闘にイライラしているのは仕方ないことだが、人に当たるのはどうかとは思う……。

 エミルは落ち込んでいる星に「もう少しだから頑張りましょう」と優しく微笑みかけると、ポンポンと軽く頭を叩いた。しかし、星にはこの悪夢がもう少しで終わるとは、とても考えられなかった。

 おそらく。エミルは一番年少の星を少しでも安心させようと、気遣ってそう口にしたのだろう。

 星達はいつか復活しなくなることを信じて向かってくる敵を撃破しながら、できるだけ体力を使わないように戦闘を行っていた。それからしばらくして、最後の1体を残すだけとなった。

 その頃には皆、体力の限界といった感じで疲弊しきった顔になっていた。
 この敵を倒しても、また復活するということは嫌というほど分かっている。ここはなんとしても捕獲しなければ――無言のまま皆頷くと、デイビッドが敵の剣を弾き飛ばし、その隙に数人が飛び掛かった。

 サラザは左手、エリエが右手を押さえ、デイビッドとカレンが足を押さえ込んだ。

「はぁ、はぁ……や、やっと終わったな……」

 デイビッドがそう言って安堵したようにぼそっと呟く。
 確かに自分達の手で押さえれば力加減を変えられる為、さっきのようなことにはならないだろう。

 っと、突然ガタガタと取り押さえられているスケルトンが激しく暴れ出した。

「ちょ! 往生際が悪いんだから!」
「絶対放すなよ! せっかくここまで追い込んだんだ!」
「そんな事言われるまでも……」
「オカマから逃げようだなんて、絶対に放してあげないわよ~」
 
 4人は暴れるスケルトンの動きを止めようと、必死でスケルトンの体を押さえつけている。すると、ガコッ!というともに突然スケルトンの頭が外れ、地面をころころと転がった。

 4人はその頭を見つめると、声を揃えて「あ……」と間の抜けたような声を漏らす。 
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