第189話 ゴーレム狩り4

文字数 3,855文字

 背中が小さくなっていくデュランの後ろ姿を見つめながら「ちっ、逃げられたか」と渋い顔をして舌打ちする。

 結局一体もゴーレムを倒さなかったデュランはメルディウスを挑発するだけで、何をしに来たかったのか分からない。その直後、チラッと攻撃しようと腕を振り上げるゴーレムの姿を確認すると、振り切られた拳を素早く横に跳んでかわす。

 その後も連続して襲い掛かってくる金色のゴーレムの攻撃をかわしながら、デュランの言葉の意味を思い返していた。

(……ベルセルクの最大の持ち味? そんなの爆発的な破壊力だ――んな事はあいつに言われるまでもなく分かってんだよ!)

 メルディウスは飛んでくるゴーレムの鉄拳にベルセルクの刃を当て爆発を起こす。

 だが、やはり敵の強固な体に押し負けてしまい。普段より爆発の反動で動作が大きくなって体制を整いきれなくなってしまう。

「――チッ!」

 押し返された勢いを空中で体を回転させることで緩和し、地面に着地したメルディウスは黄金に輝くゴーレムを睨んで舌打ちをする。眉間にシワを寄せて不機嫌そうに大きく息を吐き出す。

 考えれば考えるほど、ベルセルクの持ち味を今の状況下では活かせないと確信してイライラが増してくる。黄金のゴーレムの表皮が硬すぎて、爆発の威力も全て自分に返ってきてしまうのだ――。

 元々大斧モードはメルディウスの爆発属性を増幅発動させることで、爆発の威力を高めている。だがそれだけではなく、その能力の発動場所は刃なのだ――つまり、刃さえ入ればその部分の損傷を内部から爆発させ傷を大きくすることができる。

 その為、一撃の破壊力に特化したベルセルクの大斧モードが有効なのだが、この刃の通らない相手に対しては逆に、ダメージを稼げない上に手数も稼げない大斧モードでは無意味だ。
 それどころか疲労が蓄積すれば、攻撃速度の遅い部類に属しているゴーレム種でも、いずれは隙を突かれて直撃を喰らいかねない。そうなれば、HPを大きく削られてそして……。

 彼の脳裏に最悪のシナリオが脳裏を過る。だが、すぐに首を振って不安を払拭すると、柄を握る手に力を込めた。

「なにを細かい事を考えてんだ俺は! どんな時でも、ベルセルクを全力で振り切るだけだろうがッ!!」

 ゴーレムに勢いに任せ、力の限りベルセルクを振り抜くがそれは腕で防がれ。その直後、凄まじい爆発音と共に爆風で得物が押し返されて体が素早く回転する。

 体を振り回され体制が大きく崩れて『しまった』と思いつつ、瞬時に刃を逆に切り替えて、その勢いのまま黄金のゴーレムの腹部に刃を捉える。
 っと、今まで全く入らなかった刃が爆風の勢いがあったおかげかゴーレムの体に突き刺さり、メルディウスはニヤリと口元に笑みを浮かべ。

「――吹き飛ばせ! ベルセルク!!」

 その彼の掛け声の後、爆発が起きてゴーレムの体を真っ二つに弾け飛ばす。

 同時に黄金のゴーレムのHPが『0』になり、その体が光に変わって空へと吸い込まれていった。

 その後も自分の爆発で威力を増したベルセルクの刃で、次々にゴーレムを撃破していく。
 遠くでそれを見ていたデュランは口元にニヤリと微かな笑みを浮かべ、盾を持った重鎧の剣士が銀色のゴーレムを足止めしながら、その後ろから様々な武器を持った3人が時折攻撃をしていた。

 しかしその後ろには、2人が座り込んでヒールストーンで回復している。

 基本的にゴールド以外は1パーティーで対応していた。だが、ゴーレム種の防御力の硬さと攻撃力の高さはフィールドのモンスターの中でも高位に属していて手練の多いダークブレットのメンバーでも、手を持て余すほどの相手だった。

 周りで戦っている者達も始めの勢いは徐々に薄れ負傷者も多く、明らかに回復が追い付いていない。そこにデュランが走って来て、持っていた薙刀を振るう。

 銀色のゴーレムの残りHPの全てを減らして、ゴーレムは光に変わる。
 
「敵は次々に湧いてくる。あまり躍起になる必要はないよ」
「は、はい! ありがとうございます! 兄貴!」
「――ッ!? あに……」

 槍を手にした中肉中背な少年に『兄貴』と呼ばれたデュランは一瞬眉をひそめ、次に戦況が悪い者達のPTへと向かった。だが、彼は不愉快と言うわではなく、ただ言われ慣れていなくて照れたと言う方が正しいかもしれない。

 普段の彼はこんな面倒な事をする様な性格ではないのだが……今の彼は明らかに、このダークブレットという組織に何らかの思い入れを持っているのは間違いない。いや、そこは元ダークブレットのリーダーに――――なのかも知れない。

 その後も、デュランが次々に戦闘に介入しては、ゴーレムを撃破していくということを繰り返していたのだが、いくらなんでも次々に湧いてくるゴーレムと疲弊していく仲間達を全て一人で面倒見るのは不可能だ。

 いたちごっこのように続いていくこの状況にさすがに痺れを切らしたのか、彼は徐にイザナギの剣を自分の前に突き出す。

「……こんな所ではまだ使いたくなかったんだけどね……仕方ない。いでよ! 我が血族達! 五芒星の神徒」 

 デュランの足元に白い光る五芒星が現れ、彼を囲む様に5体の人影が突如五芒星の5角の端の部分から順番に現れた。
 そのうちの4人が白、青、黒、黄色の鎧兜を着用していて、兜の下には面頬を付けていて口からは白い息を吐いている。

 もう1人は地面に付くほどに長い黒髪に、赤い装飾品を散りばめた白い着物に身を包んだ女性だが、この者も顔には般若の面を着けている。

 だが、容姿よりももっと不可解彼等の頭上に現れている表示だ――そこには白い鎧兜が『綿津見』青い鎧兜が『大山津見』黒い鎧兜が『須佐之男』黄色い鎧兜が『月詠』そして白い着物に般若の面を着けた女性が『天照大御神』と表示されていた。

 プレイヤーはプライバシー保護を理由に、パーティーかフレンド登録をしない以外。名前を知ることもレベルを知ることすらできない。そのことから推測するに、おそらくはモンスターかNPC扱いなのだろう。

 デュランが周りに居る彼等を見渡していると、その中の青い鎧兜。大山津見がデュランの方を向いた。

 次の瞬間、彼が口を開く。

「ん? なんだ? こいつ、前の持ち主と違うぞ?」
「まあ、前の使い手は俺達を道具の様に使っていた。今回の持ち主はそうでない事を願いたいな大山津見」

 大山津見の声に答えるように、黒い鎧兜の武者が言った。
 てっきりその甲冑を身に纏って顔を隠している容姿から、年配の男達が設定されていると思っていたのだが実際には随分と若い男の声で驚く。

 それもだが、彼等はまるで意志を持って会話をしているように見えた――いや、間違いなく会話している。

 これはNPCでもモンスターでもありえない。いや、あってはならないことだろう。
 ゲームを楽しむのはプレイするプレイヤーであり、NPCやモンスターは本来、木や岩などのオブジェクトと同じ既存のシステムなのだ。

 もしも、既存のシステムでAIがなければ動けないがNPCが勝手に動き出したら、不満を募らせたNPC達がいつ暴動を起こしてもおかしくない。しかし、目の前に現れたこの武者達は間違いなく会話をしていたように見えた。だが、すぐにその疑問は確信に変わる。 

「まあ、所有者が変わることは二度目なのだから。慌てるほどでもないでしょう……もし、取るに足らない使い手なら、私が片付けますよ……」

 白い鎧兜の綿津見が甲冑とは真逆の黒さを感じる発言と、チラリと懐に隠した短刀が光るのが見えた。しかも、間違いなくデュランに見えるようにしているのが彼の中の闇を感じさせる。

 デュランはそんな綿津見に親近感を抱きながら、平静を装って彼等に命令した。

「君達は俺の出した式神なんだろ? なら、俺の言う事を聞いてもらうよ。見て分かるように今は戦闘中だ、君達にはその支援に回ってもらおうと思うんだけどいいかい?」

 まあ、命令というより交渉に近いかもしれない。

 未知の存在に警戒するのは当然のことで、何もおかしなことではないだろう。しかし、彼等はデュランの出した式神。もちろん。その所有者はデュランであるのだから、畏まる必要はないかもしれないが。

「ふん。どうせ俺達には拒否出来ない事を知ってて言ってるんだろう」
「仕方あるまい大山津見。我等は、元よりそういうものよ……」

 黒い鎧兜の須佐之男が、不満そうな大山津見の肩に手を置いて告げる。その後、兜の間から赤く鋭い視線がデュランに向けられた。

 兜と面頬の隙間から光る赤い瞳に、何かやデュランは心の中を見透かされている気がして、あまり良い気分ではない。

「だがな。主様よ、我等はそのイザナギの剣の守護者だ。他の武器スキルを使用したと同時に消失する。それだけは覚えておくといい」
「分かった」

 そう言い残し。須佐之男はゆっくりと頷くと、それに答えるように周りの者達も頷き返す。

 直後。彼等の体が光り輝いて、それぞれに四方に散っていった。

 彼等の協力もあり。戦況を持ち替えしたデュラン達は、4時間ほど狩りを続けた末。日がすっかり落ちたことを理由に戦闘を終えた。結局。その日の稼ぎは短時間で400万ユールだった――。

 怪我人は多く出たが、ホテルに行けばその日の内に回復できるので、実質的に損害は出ていない。
 まあ、一番は死者を出さずに済んだということだろう。だがそれも、デュランの召喚した5体の式神とメルディウスの無双があってこそなのだが……。
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