第27話 ダンジョン最深部へ4

文字数 4,643文字

 スケルトン達もデイビッドとエリエのことを警戒しているのか、それ以上は動こうとしない。
 おそらく。あっという間に3体をやられて無造作に飛び込んでもダメだと、スケルトンのAIが学習したのだろう。

 その時、エリエがデイビッドに向かって叫んだ。

「デビッド先輩は好きに突っ込んで! 私が援護するから!」
「了解。出来る限り倒すが漏れた敵は頼んだッ!!」

 デイビッドは刀を握り締め、敵の中に向かって突っ込んでいく。

「はああああああああッ!!」

 デイビッドは刀を構えながらスケルトンに突進すると、そのまま勢い良く刀を振り抜く。スケルトンは攻撃を受けてばらばらになり、その場に崩れ落ちた。 
 
咆哮を上げたデイビッドが、そのままスケルトンの群れにの中に飛び込んでいく。デイビッドは襲ってくるスケルトンの攻撃をかわし、素早く反撃してスケルトン達を撃破しながら突き進む。

 その後ろからエリエが続き、デイビッドが倒しきれなかった敵を自慢のレイピアの剣速を活かした攻撃で、次々と撃破する。
 普段些細なことでいがみ合っている2人からは想像もできないような連携プレイで、彼等が通った後には屍の山ならぬ、スケルトンの骨の山が築かれていった。


 大勢のスケルトンを前に、落ち着いた様子で拳を構えるカレン。

 そんな彼女の後ろで、腕を組みながら集中力を高めているカレンを見ていたマスターの檄が飛ぶ。

「――うむ。カレンよ、今こそ修行の成果。見せてみせい!!」
「はい! 師匠!」

 カレンは深く深呼吸をして拳を構えると、向かってくるスケルトン目掛けて思い切り拳を振り抜く。

「はあああああああああああああッ!!」

 咆哮を上げたカレンの拳はスケルトンの腹部に直撃し、その体を拳から発生させた風圧で勢い良く吹き飛ばす。

 飛ばされたスケルトンは、周りのスケルトン2体をも巻き込んでばらばらになる。それを見て、マスターは満足そうに頷くと己の拳を固めて叫んだ。

「うむ。カレン見事だ! しかし、まだ踏み込みが甘いな――良いか。よく見ておれ! 突きとはこうするのだ!!」

 マスターは拳を構え低い姿勢を取ってそう叫んだかと思うと、カレンの前から一瞬で姿を消した。

 カレンが慌ててマスターの姿を捜すと、彼はすでにスケルトンの目の前に移動していて、今にもスケルトン目掛けて拳を突き出そうとしているところだった。

「見よ、これが正拳突きだ! はあああああああッ!!」

 マスターは咆哮とともにスケルトン目掛け拳を前に突き出した。
 その直後、カレンのものとは比べものにならないほどの衝撃波の様なものが巻き起こり、周りにいる敵をまとめて吹き飛ばす。

 軽々と宙を舞ったスケルトン達が地面に落ちてバラバラに周囲に散らばる。それを見たカレンは、目を輝かせながら歓喜の声を上げた。

「さすがは師匠! 素晴らしい突きでした!!」
「うむ……」

 マスターは満足そうに微笑むと、まだ数多く残っているスケルトンを睨みつけ「まだ敵はおるぞ! 油断するでない!」と直ぐ様、拳を構え直す。


 たった一人……敵に囲まれ、サラザは身動きが取れない状況になっていた。

「これは……オカマでも。さすがにまずいわねぇ……」

 サラザはスケルトン達に囲まれたこの絶対絶命の状況にそう弱音を吐くと、額から一筋の汗が流れ落ちた。

 どうしてサラザがここまで追い込まれたかというと、戦闘が始まり初めのうちは軽快に次々と敵をバーベルでなぎ倒していたサラザだっが、敵を倒すことばかりに集中しすぎて前に出過ぎてしまい。
 気が付いたら周りのメンバーとの間に大きく距離が空いてしまって、今のこの状況になっていた――というわけだ。

(――これは本当にまずいわね。ここは、とりあえず近くにいるグループに合流しないと……)

 そう考えたサラザは辺りを見渡した。すると、星とエミルが戦っているのが目に入った。

 あそこに合流するしかない! 咄嗟にそう判断したサラザは、スケルトンの中にバーベルを振り回し飛び込んでいた。

「死にたい奴はかかってらっしゃい! オカマに触ると、火傷するわよ!!」

 サラザは「うおおおおお!」と雄叫びを上げながら、向かってくるスケルトン達を次々と薙ぎ払って、2人の元へ向かって無我夢中で走り続ける。

 星はサラザに逸早く気付き、その方向を指差して叫ぶ。

「あっ! エミルさん。サラザさんがこっちに走って来ます!」
「えっ? 大変! スケルトンに追われてるわ!」

 スケルトンに追われながらこちらに向かって走ってくるサラザを見て、エミルは何時になく慌てている。もちろん。それは近くにいる星のことを気遣ってのことだ――。

 単独で戦っていれば左程大きな影響はないであろうが、今は近くに初心者の星がいる。
 いくらHP量が跳ね上がったからとはいえ、戦闘においてのプレイスキルが上がったわけではない。

 そんな中で更に多くのスケルトンを抱える余裕はないが、一概にサラザを責めることもできなかった。

 自分達も目の前の敵を倒すのに必死で、周りを見ている余裕などなかったからだ。
 それもそのはずだろう。地面に散らばっていた骨が急にモンスターになったのだ、動揺しなかったと言ったら嘘になる。
 
 骨がモンスターの形になって動くまでに、少ない時間はあったもののそれでも状況を理解することで精一杯だった。

 その後は突然現れ、数で勝る敵に苦戦を強いられていて、周りのメンバーを気にする余裕などなかった。

 ただ、パーティーメンバーの名前とHPの残量が表示されている場所を見て、全員の無事を確認していて少しほっとしていたエミルだったが、目の前からスケルトンに追われながら全力でこちらに向かってきているサラザの姿を見ている分には、事はエミルが思っていたほど状況が良くないと理解した。

 エミルはちらっと星を見ると、交戦していたスケルトンを素早く撃破し、瞬時にコマンドを操作し盾と巻物を取り出す。

「星ちゃん! ちょっとサラザさんを迎えに行ってくるからちょっとの間持ち堪えられる?」
「はぁ、はぁ……は、はい。私の事は気にしないでいってください……」

 星は呼吸を荒げながらも、にっこりと微笑んだ。だが、その星の表情からは疲労の色が見て取れる。しかし、エミルがいなくなれば戦闘経験の薄い星が長い間耐えられないことは、火を見るよりも明らかだった。 

 ここでサラザと合流すれば、追いかけてきているスケルトンもまとめて合流することになり、状況は更に悪化する。それは結果的に、星に負担を掛けることを意味していた。

「星ちゃん。これを装備してできるだけ攻撃はしないで守りに徹して、良いわね?」
「は、はい。分かりました」

 エミルは星に盾を渡すと、にこっと微笑んで「いい子ね」と頭を撫でた。

 徐ろに巻物を取り出したエミルが、それを地面に広げ笛を鳴らす。
 すると、煙とともに全身を剣で武装されたドラゴンが現れた。

「うわ~。刺さったら痛そう……」

 星はそのドラゴンの容姿を見てぼそっと呟く、その数多い武装に目がいきがちだが、何よりも凄いのは尻尾だ――。

 このドラゴンの尻尾が2本あり、まるで2つの薙刀をそのまま付けたような形をしている。ドラゴン自身もその自慢の尻尾をぶんぶんと振っていて、やる気は充分そうだ。

 エミルはドラゴンの説明をすることもなく、ドラゴンの背中を軽く叩く。すると、針のように背中にびっしりと並んでいる剣が一本抜け宙を舞った。

 その剣を取ったエミルは「星ちゃん。絶対にこの子から離れないでね」と言い残し、サラザの方に向かって走っていった。

 星は「よろしくね」とドラゴンに優しく語りかけると、ドラゴンもその言葉に応える様に。

 ――グオオオオオオッ!

 っとひと鳴きした。

 前から2本の剣を手にしたエミルが走ってくるのを見て、サラザは嬉しそうに微笑んだ。

「サラザさん。大丈夫ですか!?」
「ごめんなさいね~。ちょっとドジっちゃったわ~」
「いえ、こちらもいっぱいいっぱいで、とりあえず少しでも数を減らしておかないと、星ちゃんが大変なので……」

 エミルは言い難そうにそう呟くと、星の姿を心配そうに見つめている。

 そんな彼女の心配を他所に、星は向かってくるスケルトンの攻撃を盾で防ぎ、それをエミルのドラゴンが尻尾の刃で薙ぎ払うという見事な連携プレイでなんとかその場を持ち堪えている。

 だが、敵の数的に今はよくてもそれほど長くは持ち堪えられないだろう。
 その様子を見たサラザも180度回って、追ってきている敵の方へと向きを変えた。

「――あんな小さな子の方に、こんな化け物を持っていったらダメよね……私も冷静さを失っていたようね。エミル、あなたの言う通りだわ!」
「サラザさん……」
「早くかたづけて街に戻りましょ~」

 サラザは、エミルに向かってにこっと微笑みウインクした。エミルもそれに応えるようににっこりと笑って頷く。

 2人はスケルトンに武器を構えると、そのまま突っ込んでいった。
 敵は2人の猛攻に見る見る数を減らしてゆく、その中でも多くの敵を撃破していたのはエミルだった。

 2本の剣をたくみに操り、敵を次々と薙ぎ倒している。普通は剣が一本増えたことで、単純に2倍強くなるというわけではない。
 両手が剣で塞がっている為、攻撃をガードする際の能力は著しく低下するし、攻撃の際も一撃の破壊力も極端に落ちる。

 2本持てば敏捷性が下がるのではないか? っという懸念もあるが、そんなことはない。プレイヤーのレベルや種族によって総重量が設けられていて、それを超えない限りはシステム上、必要以上の重量を感じることはない。

 二刀流の利点は、攻撃速度とガードに移る時に僅かに早くなる程度のものだ。

 だが、エミルは明らかに強くなっている。それは、エミルが本来は2本の剣を使うことに長けているということの証でもあった。

 最初は劣勢だと思われたスケルトンとの戦闘だったが、2人の猛攻で見る見るうちにその数を減らしていくスケルトンの群れ。

「もう、このぐらいで大丈夫でしょう」
「そうね。あらかた――片付いたみたいね~」

 エミルが声を掛けると、サラザは辺りを見渡して安堵の表情を見せる。

 2人は急いで星の方へと走り出した。

 星の元に着いた時には、星も最後の1体を丁度倒したところだった。

 懸念していた星だったが、結果的には敵を全て撃破するという驚くべきものだった……。

「――星ちゃん。大丈夫だった!?」
「はぁ、はぁ、はぁ……大丈夫です。これも、エミルさんがたくさん倒してくれたおかげですね」

 荒く肩で息をしながらも、星はエミルの顔を見上げてにっこりと微笑んだ。

 星のHPバーが少し減っていることから、数回のダメージを受けたのは言うまでもない。

 痛覚があるこのゲームでダメージを受けるという行為は、それだけで肉体的にも精神的にも著しく疲労するということだ。しかし、星のそんなことを感じさせないように振る舞う健気な姿に、エミルの瞳からは自然と涙が流れた。

 エミルはそのまま何も言わずにそんな星を抱きしめると、優しく頭を撫でた。

「……よく頑張ったわね、星ちゃんは強いわ……」
 
 星はどうしてエミルが泣いているのか分からなかったが、その理由を聞いてはいけないような感じがした。
 もしこのことを聞いてしまったら、エミルとの関係が終わってしまう――そんな気がしていたのだ。しばらくして、戦闘を終わらせたエリエ達も続々と合流した。
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