第190話 ゴーレム狩り5

文字数 2,748文字

 月明かりを受け、地面に立ち尽くしているデュランに須佐之男が声を掛けてきた。

「では主様よ。我等は戻るとしよう」
「ああ、ご苦労様」

 素っ気ないほどに短いやり取りだったが、須佐之男は満足したように「また何かあれば我等を呼ぶといい」と言い残して消えた。

 そこにメルディウスが大斧を担いでやってくる。

「おう! そっちも無事なようだな!」

 ゴーレムを力の限りねじ伏せていたからか、先程のデュランとのやり取りが嘘のような清々しい表情だ。

 デュランは安堵した様な表情でメルディウスを見た。
 今はデュランとしてもメルディウスと事を構えるのは避けたかったのだろう。

 固有スキルを使用できない今のメルディウスでも、武器スキルと戦闘能力だけならデュランより遥に高い。
 また、デュランの固有スキル『アブソーブ』でメルディウスのスキルを使用してもいいのだが、己と共に周囲を滅する彼の固有スキル『ビッグバン』を使用しようして彼と心中しようとは思えない。

 四天王の中でも一二を争うのは、固有スキル『ビッグバン』のメルディウスと『ナイトメア』を持つバロンだろう。デュランと紅蓮の持つオリジナルの固有スキルも強いのだが、紅蓮の『イモータル』はモンスターとの戦闘向きで対人戦には不向きなスキルだ。

 死なない為。無謀な攻撃を繰り返し多くHPを削り、また長期戦になっても確実にモンスターを撃破できる。
 また、デュランの固有スキル『アブソーブ』も同じで個人戦向きではない。この固有スキルはモンスター戦でも対人戦でも周りに固有スキル持ちがいて始めて本領を発揮するスキルだ、汎用性が高いスキルだからこその欠点は否めない。

 ずば抜けた戦闘スキルの高さに加え、奥の手があるメルディウスと、他者を圧倒する制圧力があるバロンには遠く及ばないのだ。

 大きく伸びをして「腹が減ったなー」と言って、召喚した馬に跨がるメルディウスを見て。

『こんないい加減な奴に……』

 っと内心苛立ちを隠せないものの、疲労しているのは自分も同じ。ここは不服ではあるが、彼の行動に同調せざるを得なかった。

 自分も馬を出して背中に跨がると、現ダークブレットのリーダーであるデュランと同じように馬を出して、それに跨がるメンバー達に声を大にして叫ぶ。

「よし! 皆帰るぞー!!」
『おぉー!!」

 その言葉に歓声にも似た声を上げ、デュラン率いる大部隊がゴーレム達の住み処を後にした。
 始まりの街に戻った彼等は今日の労をねぎらう為、街にある飲食店を満席状態にして酒やジュースを掲げ乾杯した後に食事を取り始める。

 街に着いた直後はへとへとだった彼等も、今はそんな顔一つ見せることもなく目の前の食事を次々に胃袋に収めていく。その勢いは、あれほど激しく動いた後に良くこんなに食えるなっと感心するばかりだ。

 大きな氷を一つ入れた小さなグラスで、ゆっくりとウィスキーを飲んでいるデュランの肩に手を回し、メルディウスが大きなグラスにハイボールを手にして大声で笑っている。

 既に出来上がっているメルディウスに、不愉快そうに眉をひそめながら告げる。

「……俺はゆっくり酒を飲みたいんだ。君はどこかに消えてくれないか?」
「あははははっ!! 相変わらず辛気臭い野郎だな~お前は! 酒はわいわいがやがや飲むからうめぇーんだろうが! ほら、おめぇーももっと飲め飲め!」

 着ている鎧と同じくらいに顔を真っ赤に染めながら、メルディウスはジョッキグラスの中のハイボールをデュランのグラスに溢れるまで注ぐ。

 その直後、イライラが頂点に達したのかデュランの握っていたグラスがバキッとヒビ割れる。

「――店員さんすまない。新しいのを頼むよ」

 近くに居た店員を呼び新しいグラスを受け取った。

 それを見たメルディウスは、更に上機嫌でハイボールを飲み干した。

「俺ももう一杯!」

 店員からハイボールが入ったグラスを受け取ると勢い良く飲み干していく、それはもう浴びるように……。

 だが、それは彼だけではなく、周りのダークブレットのメンバー達も羽目を外して各々で楽しんでいる様子だった。そんな時、外から悲鳴が聞こえてくる。それも1人、2人ではなく相当大勢のものだ。

 デュランの肩に腕を回し、酔ってゲラゲラと笑っていたメルディウスの表情が嘘のようにキリッとした目でデュランを見た。

 その瞳を見たデュランも悟った様に小さく頷くと、突如走り出してガラスを突き破って外に飛び出す。それを見たメルディウスも勢い良く窓に向かって全力疾走して、ガラスに向かって飛び込んだ――――はずだった。

 次の瞬間、彼を待っていたのは窓ではなく、窓と窓の間の支柱に激しく激突した。

 ――ドカッ!!

 大きな音と共に額を押さえながら、瞳に涙を浮かべその場に座り込んでいるメルディウスは逆ギレ気味に叫ぶ。

「誰だよ! こんな場所に支柱なんて設定した奴は! 緊急時邪魔じゃねぇーかッ!!」

 まあ、緊急時に窓から飛び降りようとする者の方が少ないと思うのだが……。

 八つ当たりのように壁をもう一度殴り付けると、尚もブツブツと文句を言いながらも、メルディウスはガラスを突き破って外へと飛び降りた。
 打ち上げをしていた会場の二階だったが、レベルがMAXの彼等はこの高さから飛び降りても何のダメージもない。

 レベルによるステータスも関係あるが、システムではある一定の高さ――即ち大きな建物の屋上か崖の上からでも落ちない限りは、HPへのダメージ計算しないので死亡することはまずない。

 地上に降り立ったメルディウスは、鞘に差したままのベルセルクを取り出した。目の前には、イザナギの剣を握り締めているデュランが立っていた。

 そこには外を黒い刀を振り回しながら、辺り構わず斬り伏せている男の姿があった。
 その瞳は狂気に満ちていて、ニヤリ不気味な笑みを浮かべ、向かってくる者はもちろん。背を向け逃げる者達をも、躊躇なく無差別に斬り殺している。

 月明かりを受け黒光りする刀に斬られた者は例外なく光の粒子となって空へと消えていく。

「……あれは、俺のダーインスレイヴやイザナギの剣と同じか?」
「俺は先に突っ込む! お前は後から来い!」

 小さく呟いているデュランを置いて、メルディウスが先陣を切って突っ込んでいく。
 黒刀を持った男も、大剣を持って走ってくるメルディウスに気付いて突進してくる。

 2人の距離が詰まり、男がメルディウスの右肩を狙って突き出した刀身を体を捻ってかわしながら、構えた大剣が大斧の姿へと変わり。

「うらああああああああああああッ!!」

 雄叫びと共に振り抜かれた大斧の刃が男の腹部に直撃し、爆発を起こして男の体を吹き飛ばした。

 男は土煙を上げながら派手に地面を転がって、しばらくして止まった。
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