第343話 太陽を司る巨竜6

文字数 3,274文字

 ワームホールの中から黒い棺の様なものが出てきた。しかし、その大きさはとても巨大で、棺というよりも巨大な船と言った方がしっくりくるかもしれない。
 
 表面に十字架の飾りを付けたその黒い棺がゆっくりと起き上がりギギギッと音を立てながら開くと、中からは大きな十字架が出てきた。
 その十字架は鎖で羽交い締めにされており、出てきた十字架がゆっくりと反転すると、そこには漆黒の竜人が張り付けられていた。

 漆黒の鱗に覆われたその体の胸元には巨大なドラゴンの顔が付いており。両肩には鋭利に飛び出した角が付いていて、体のあちこちからも同じように角が突き出していて、細いそのボディーとは裏腹にゴツゴツとした印象を受ける。

 頭部には悪魔を彷彿とさせる角が付いていて、その顔にも魚のヒレの様な突起物が複数付いている。
 漆黒の龍神は鎖で体を縛り付けられたを捻り、全身を拘束している鎖を強引に引き千切って咆哮を上げる。

 ――ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 耳を貫くような甲高い咆哮が辺りに響き渡り大気を震わせ、地上にいたプレイヤー達も突如現れた悪魔の様な漆黒の龍神に怯えた表情を向けていた。

 だが、それも当然のことだ――悪魔の化身としか思えないマントの様に広げた大きな翼の外は黒と内は赤のコントラスト。全身漆黒の鱗で覆われ、至る場所に突起物のある体に顔。そして、その顔には血を彷彿とさせる真紅に光る瞳に、口から吐かれる真っ白な息が黒い体に重なってはっきりと見える。

 翼を広げたその漆黒の龍神の大きさは、元々のリントヴルムの大きさを遥かに超えていて、巨竜状態のレイニールよりも大きい。見た感じ100m以上はあるだろう……。

 だが、それだけの大きさを持ってしても、空中にいる赤い鱗を持った巨竜とは圧倒的な体格差がある。例えるならば、象にコウモリが挑むようなものであり、その圧倒的な体格差を覆すほどの武装を持っているようには、現れた漆黒の龍神を見ている限りでは見えない。

 エミルはコマンドを表示すると、まずはその漆黒の龍神の名前を確認する。名前を見ると、その項目には『リントヴルムNEXT ザ・デストロイヤー』と記載されている。

 武装に置いては本来ならば、別のウィンドウに武装用のドラゴンの名前と武器の種類がドラゴンの形をした各部位に表示されるのだが、そこには右手と胸の辺りに武装とその名前が表示されている。胸元の武装には『ドラゴニックバースト』と表示されていた。

 エミルは胸のところを押すと、漆黒の龍神が再び大きく咆哮を上げて、その体をドラゴンの方へと向ける。
 その直後、ドラゴンの方に向けていた胸元に付いたドラゴンの口が起き上がり、胸のそのドラゴンの口が大きく開く。

 胸元のドラゴンのその口の中に、漆黒の炎を溜め込みそれが一気に引き込まれ先程の赤い鱗のドラゴンから吐き出された熱線の様に一本の線になって撃ち出された。

 一直線に飛んでいった熱線は、燃え盛るドラゴンの体に直撃する。すると、ドラゴンの皮膚に線が走った。
 今まで全くと言っていいほどにダメージを与えることができなかったそのHPバーがわずかだが減少していた。それを見て、エミルも影虎も驚いている。

 当然だ。今まで数万単位の戦力を持って全力で攻撃をして、その身に傷一つ付けることができなかった。
 そんな撃破方法もないと思っていたドラゴンに、わずかだが傷を負わせることに成功したのだ――それは攻撃していれば撃破できるということだ。これが分かっただけで、一発逆転は無理でも大きな進歩と言えるだろう。

 そう。今まではできなかったが、リントヴルムとファーブニルを組み合わせたこの漆黒の龍神ならば、撃破できるかもしれない。

「――フルコントロール!!」

 エミルは隣にいた影虎に「私の体を頼んだわよ」とだけ言い残し、その場に立ち尽くしたまま動かなくなった。
 訳の分からない影虎が彼女に話しかけようがその体を揺らそうが、エミルから反応が返ってくることはない。

 まるで魂の抜け殻と化した彼女を見守っている。というよりも、その視線はエミルの着ている白銀の鎧の中に覆い隠されている胸へと向いていた。
 まあ、異性とワイバーンの背中に二人きりというのは、どうしても意識せざる得ない。それが意中の相手ならば尚更だ――。

 普段は意識していなかったが、エミルの胸は装備越しとはいえ、なかなかにボリュームがある。

 男ならば誰でも、目の一番近くに入るその膨らみに興味を示さない者などいないはずだ。
 っと影虎は殺気を感じてその方を見ると、地上にいたイシェルが微笑みを浮かべ、弓を引き絞っているのが見えて血の気がサーっと引いた影虎はエミルの胸に視線を合わせるのを止めた。

 すると、エミルが右手を大きく横に振り上げる。それと相応して漆黒の龍神も右手を振り抜くと漆黒の闇が現れ、その中から巨大な剣が出現する。
 その柄を掴むと、龍神は闇の中から勢い良く引き抜いた。その漆黒の大剣の先をドラゴンに向け、翼をはためかせ襲い掛かった。

 それには今まで止まったまま、全く攻撃の意思を示さなかった赤い鱗のドラゴンも、ダメージを受けたことで遊撃の意思を示す様に体を覆う炎が増す。
 その炎から出た火がまるで火山の噴火の様に地面に落ちて、地上にいたプレイヤー達は慌てて距離を取る。

 だが、遠くではレイニールと巨人がまだ戦闘を続けている。今はまだレイニールが圧倒しているが、それがいつまで続くかは分からない。
 もしも、レイニールが負けることにでもなれば、エミルの出した漆黒の龍神。リントヴルムNEXTザ・デストロイヤーは巨人とドラゴンに挟まれることになる。そうなれば、勝利するのはかなり難しくなるだろう……。

 ここはなんとしても、エミルと漆黒の龍神に頑張ってもらうしかない。大剣に漆黒のオーラを宿し、悪魔の化身の様な見た目のリントヴルムNEXTザ・デストロイヤーが、炎に包まれた赤い鱗の巨竜へと襲い掛かる。

 空中で向かってくる尻尾の攻撃を避け、漆黒の龍神はドラゴンの左側へと斬り掛かった。

 漆黒のオーラを纏った大剣の刃が、ドラゴンの体を纏う炎を退いてその赤い鱗の体に届くと、太陽の黒点の様に真っ黒くなり。そのまま、大剣が走るように線を付けながらリントヴルムNEXTザ・デストロイヤーが、ドラゴンの横を高速で通過する。

 直後。そのHPバーが更に減少し、咆哮を上げたドラゴンのその青い瞳が悠々と空中に浮かんでいる漆黒の龍神を鋭く睨んでいた。

 その視線を受けたリントヴルムNEXTザ・デストロイヤーも甲高い咆哮を上げて持っていた大剣を横に振り抜く。
 その瞬間、首を最大まで伸ばして口の中に炎を溜めたドラゴンが、再び巨大な熱線を放ちながら体を入れ替え、剣の刃の様に熱線を放ちながら周囲のものをなど構うことなく。空中にいる漆黒の龍神だけを見て勢い良く振り抜いた。

 だが、それは漆黒の龍神に当たることはなく、熱線から逃げる漆黒の龍神を執拗に追い回す。
 しかし、逃げる方も必死だ――だが、それも当たり前なのだ。巨竜の放つ熱線の大きさは、リントヴルムNEXTザ・デストロイヤーの全長を遥かに超える大きさであり、もし掠っただけでもそのダメージは計り知れない。

 とはいえ。幸いにドラゴンとのその違い過ぎる大きさのおかげで、破壊力は向こうの方があるが俊敏性ではリントヴルムNEXTザ・デストロイヤーの方に分がある。

 たとえ象が如何に巨大とはいえ、周囲を飛び回る機敏なコウモリを捉えるのはそれほど容易くはないのだ。
 
 そしてその巨大な熱線といえ、無限に吐き出し続けることはできない。次第に勢いが弱まってきて熱線が細くなると、今まで一定の距離を取って逃げていた漆黒の龍神が大剣を構えながら、勢いの弱まる熱線の周囲を飛び回る様にして交わしつつ、直線的にドラゴンに向かっていく。

 ドラゴンの口から出る熱線が切れた瞬間を見逃すことなく、その首筋に持っていた大剣の刃で斬りつけた。
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