第352話 太陽を司る巨竜15

文字数 3,135文字

 彼はネオが始まりの街から戻ってきたと思ったのだろう。表情を明るくして「生きていたんですね!」と声を上げると、ネオはゆっくりと左右に首を振って答えた。

 その様子を見たゲインは困惑した表情で、目の前に立っているネオを見つめている。

「俺にも分からない。ただ、声が……お前の声が聞こえて来てみたらここだった……」
「リーダー。俺はどうすればいいのか分からない……今頃になってリーダーの凄さに気が付いたんだ。俺にはリーダーの代わりは無理だ!」

 声を荒らげてそう叫んだゲインに、ネオは微笑みを浮かべ咥えていた煙管を口から放し、その先をゲインの方へと向け。

「おいおい。戻ってそうそう弱音を吐くなよ……ゲイン。お前は勘違いしているぞ? 俺はなにも凄いことはしていない。ただ、俺はお前達をいつでも信頼していた。だから、俺は好き勝手できたんだぜ?」

 優しい笑みを浮かべてそう言ったネオに、ゲインは声を荒らげて叫ぶ。

「嘘だ! リーダーはいつでも俺達の事を考えてくれていた! 俺は知っている。リーダーは誰よりも仲間達を愛していたことを! ……だが、俺にはそれだけの情熱はない。俺はリーダーに付いていきたいって思ってこのギルドに入ったんだ。あんたに全てを賭けてもいい……そう思ったからこそ、このギルドに入ったんだ! それは皆、同じだ。俺以外もみなそう思っている!」
 
 ゲインのその言葉にため息を漏らしたネオは、彼に向けていた煙管で今度は赤い鱗の巨竜の方へと向ける。

 そして、徐に腕を上げて遠くに見える赤い鱗の巨竜を指さしながら言った。

「なら、試してみろよ! お前は奴らと同じ様に戦いたいんだろ?」
「リーダー……あんたならできるかもしれない。だが、俺がやれば皆が俺と同じ様に突撃して無駄な犠牲が出る」
「――だから、やってみろ! やる前からうじうじ考えて動かないのは、ビビってるからだ……でもな。お前が思ってるほど、面倒な事にならないと俺は思うぜ? 他のギルドなら分からねぇ。でも、俺はギルドのメンバーを誰よりも信頼していた。お前も少しは仲間達を信じてやれよ……恐れているだけじゃ何もできないぜゲイン。頑張れよ!」

 振り返ったネオはゲインに微笑みを浮かべると、スッとその姿を消した。

 消えたネオの姿を必死で探すゲインだったが、どこにも彼の姿は見えない。
 ネオが姿を消したことで、今まで見ていた彼が幻であったと気付いたゲインは、彼の言葉を思い出して決意に満ちた瞳を赤い鱗の巨竜へと向ける。

「リーダーが俺の前に出てきたのには理由があるはずだ――あの人の言う通り、確かに俺はビビっていたのかもしれない。仲間達を理由にして……情けないぜ。こんなんじゃ、消えたリーダー達にも顔向けできないな……行動する前からあれこれ考えても仕方ないよな!」

 ゲインは漆黒の刃を持つ大剣『デュランダル』を構えると、咆哮を上げながら赤い鱗の巨竜の足に向かっていく。

 その姿を見た彼の仲間達も彼に続けと走り出す彼等を「行くんじゃねぇー!!」と叫ぶ大きな声が遮った。

 その声を発したのはギルド『LEO』の4番目に強いプレイヤーであるウォーニスだ。二メートルを軽く超える巨体に隆起した全身の筋肉に、その体に刻まれている無数の傷が彼の強さを物語っている。ゲイルを追って飛び出そうとしたギルドのメンバー達も彼の言葉に従わざるを得ない。
 
 ウォーニスはギルドの中では4番目だが、ギルド内での彼の認識は少し違う。何故なら、彼はギルドマスターであるネオと固有スキルが系統が同じである。ネオの固有スキル『メタモルフォーゼ レオ』それと同系統の固有スキルがウォーニスの『メタモルフォーゼ グリズリー』だ。
 
 分かりやすく言うならば、ギルドマスターのネオが剛の者である。ならば、サブギルドマスターのミゼは柔の者だ――つまりそれは、ウォーニスが剛ならゲインは柔なのだ。それは、ギルドマスターに最も似ているウォーニスの方がゲインよりも仲間達からの評価は高いということなのだ。
 
 一斉にウォーニスを見たギルドのメンバー達に彼は走り去るゲインの背中を指差して告げた。

「分からないのか? あいつの背中が俺達に来るなと言っている『ここは俺に任せろ!』そう言っている。リーダーの背中をずっと見てきた俺達にはそれは分かるはずだぜ……」

 メンバー達も無言のまま、ウォーニスの言葉に頷くしかなかった。

 ウォーニスは全力で駆け出していったゲインの背中を見つめながら「頑張れよ」と小さな声で呟いた。
 赤い鱗の巨竜の足に張り付いていたダイロスの横に付いたゲインを見て、ダイロスはニヤッと笑みを浮かべた。
 
「おお、きたか! お前がいれば負ける気がせん!」
「おう! 提案がある。俺もあんたも基本スキルは『タフネス』だ。しかも、互いに同じ様な特性の固有スキル。基本スキルと固有スキルを組み合わせ、攻撃力を最大まで引き上げれば、止められなくともバランスを崩すくらいはできるはず!」
「分かった!」

 ダイロスとゲインは互いに頷くと互いに同じ武器『デュランダル』を赤い鱗の巨竜の足に押し付けて大声で叫んだ。

「豪腕!!」
「旭日昇天!!」

 その掛け声と同時に二人に変化が起こる。ダイロスは持っていた漆黒の大剣の刃が赤く発光し、ゲインはその体から赤い炎の様なオーラを天に向かって真っ直ぐに立ち上げる。

 二人の固有スキルは互いに性質は違うが、自身の攻撃力を一時的に100倍まで引き上げる必殺のスキル。
 しかも、互いに不滅の刃を持つトレジャーアイテム装備『デュランダル』であるからこそ発動できる固有スキルなのだ――。

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」」

 ダイロスとゲインが声を揃えて叫ぶと、赤い鱗の巨竜の動きが一瞬だけ乱れその歩みが止まる。

 すると、その機に乗じて複数の人影が足に取り付く。

「メルディウスさんごめんなさい。遅くなったわ!」
「――ッ!? お前は……白い閃光!!」

 メルディウスの近くにはエミル、そして影虎が彼に加勢するべく加わった。

 エミルのことはすぐに分かったメルディウスだったが、影虎のことは全く分からないらしく。

「お前は…………誰だ?」

 彼の言葉を聞いて、影虎は激怒しながら叫ぶ。

「俺が分からないというのか!? 俺だよ。ドラゴン使いの上杉影虎だ! どうして愛海のことは知ってて俺のことは知らないんだ!」
「いや、どうしても何も……」

 困ったような顔をしたメルディウスの横で、リアルの名前を呼ばれたエミルは思考を停止させていた。だが、応援に来たのはエミル達だけではなかった。
 
 小虎の所にもデイビッドが応援に来ていた……。

「小虎くん遅くなってごめん」
「デイビッドさん!」

 デイビッドの登場で小虎は目を希望に輝かせた。

 二人は侍好きがこうじて仲良くなったが、その絆は今では小虎のギルドマスターであるメルディウスと同じくらいまでになっていた。
 
「今、サラザさん達も応援に駆け付けてくれてる。ボディービルダーの彼等が参戦してくれるのは心強いよ!」

 忘れがちだが、フリーダムには基本スキルの攻撃、移動スピードに特化した『スイフト』攻撃力、防御力を特化する『タフネス』の他に3つの種族が存在する。それが『ヒューマン』『エルフ』『ボディービルダー』である。

 その中でもボディービルダーは攻撃力、防御力にステータスを大きく割り振ったものになっている。だが、その人口は極めて少なく。少ないと言われているエルフよりも圧倒的に少ないと言っていい。

 正直。ボディービルダーという種族がVRゲームで見るのが少ないのが当たり前だ。日常生活でゴリゴリのマッチョを見たことはあるだろうか……。
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