第323話 反撃の奇襲2

文字数 2,696文字

 大きな爆発音と共に、辺りにモンスターの残骸が粉々になって吹き飛ぶ。

 楽しそうな笑い声と爆発音を立ててメルディウスは、破竹の勢いで見る見るうちに敵の数を減らしていく。

 その様子を見ていると、さすがは街のトップギルドまで昇り詰めたギルドのギルドマスターと言ったところだ――敵が視界に入ってからの反応速度。死角からの敵の攻撃を察知する危機察知能力。隙の多い大斧を振り回し、手足まで使ってその弱点をカバーする戦闘センス。全てが他者の追随を許さない超越した領域であり、紅蓮が5万の敵と匹敵するプレイヤーだと言うのを頷ける。
 
 だが、いつの間にかギルドマスターに負けじと紅蓮から渡された刀を振るう、白雪も彼に引けは取らないほどの強さを見せる。
 純白の刀身から放たれる冷気は敵を見る見るうちに減らし、とても今日初めてその武器を使った者の動きではない。
 
 彼等のその強さにはデイビッドもエミルも唖然としている。そんな彼等の背後に一人の男が現れる。

「あー。彼も本気でこの戦いを楽しんじゃってるねぇー」
「「――ッ!?」」

 二人は驚き咄嗟に身を翻すと、更に驚いた様子で目を見開く。
 何故なら、そこに居たのは四天王の一人デュランだったからだ――彼の周囲にはそれぞれ別の色の着物を着た5人の能面を付けた者達が立っていた。

 彼等はデュランの持っている武器『イザナギの剣』で召喚した従者達だ。デュランの持つイザナギの剣は7つの能力を持っている特殊武器であり、その能力は全てがチート級の能力だが原則として一つの能力を発動している間は他の能力は発動できず。しかも、他のを発動すれば前までの能力の効果は消えてしまう。

 つまり、彼が別の能力を使えば、例外なく周りにいる従者達も消えてしまう。今の彼が持っている武器は刃の光る普通の刃物でしかない。
 まあ普通の武器になっただけで、それだけではトッププレイヤーである彼の戦闘技術が落ちることはないだろう。少なくとも装備だけでレベルを最大まで引き上げているモンスター如きに負けはしないのは間違いないだろうが……。

 突然現れた彼等を訝しげに見ていたエミルが、彼がどうしてこの場所に来たのか尋ねると彼は微笑を浮かべながら言葉を返す。

「そんなの、君達を助けに来たに決まっているだろう? まさか、君達を背後から強襲しようなんて思ってないよ」
「そうですよ。私の主人はそんなことをする人ではないですよ」

 彼に味方するように言ったのは、白い着物で頭に天狗の能面を付けた長い白髪を後ろで束ねた緑の瞳の従者だった。彼のその甘いマスクから出た表情は不気味なほどの笑顔だった。

 だが、エミルにはそのイケメンという名の仮面の下に隠している素顔を見過ごさなかった。

(この人物も要注意ね。星ちゃんには近付けないようにしないと……)

 心の中でそう思いながら、エミルはデュランと彼の従者達に少し警戒した様子で体を強張らせる。
 それは彼等も気が付いているようで、武器を持って身を翻す彼等の口元には微かな笑みを浮かべている。 

 そうこうしていると、周囲を敵に囲まれてしまっていた。その全てが例外なく漆黒の武器を手に持ってじりじりとエミル達に迫る。しかし、その場にいた誰もが全く物怖じした様子もなく、距離を縮めてくるモンスター達を鋭い目で見据えていた。

 っと彼等の前に敵を遮るように立った従者達がそれぞれに自信満々に言い放つ。

「主人を守るのが我々の仕事。その仲間達も同じである……私達の後ろに下がっていろ」

 黒い着物を羽織り須佐之男の名を持つ短髪の黒髪に般若の面を着けた赤い瞳の男が落ち着いた様子で刀を構えた。

「けッ! 奴は気にいらねぇーが。燃えてきたぜ……毎度毎度楽しそうな場所に呼んでくれるじゃねぇーかッ!!」

 青い着物に身を包む大山津見の名を持つ短髪の青髪に狐の面を着け、左右別々に青と緑のオッドアイをギラつかせている男が腰の刀を乱暴に引き抜く。

「あははっ! 今回も派手なお祭りになりそうだねぇ~」

 黄色い着物を着た月読の名を持つ肩まで伸びた金髪に翁の面を着けた黄色の瞳。そしてその腰には紐の付いた瓢箪をぶら下げていて、その表面には酒の文字が刻まれている。彼の手には金色で煌びやかな宝飾が施された扇が握られていた。

「できれば殿方の前ではしたなく戦いたくはないのですが、この状況では仕方ありませんね……」

 羽衣に紅白の着物を身に着け、天照大御神の名を持つ彼女は長い黒髪をなびかせ、横に付けた女の面を投げ捨てると、太陽を模した杖を振り抜きその透き通った茶色い瞳を死霊系モンスターの群れに向ける。

 さっきエミルの言葉に反応した男――白い着物で綿津見の名を持つ長い髪を後ろでに束ねた白髪の天狗の面を着けた緑色の瞳をしていて薙刀を手にした彼が、その薙刀を一振りして地面に柄の先を突き立てる。

「さてさて、躾のなっていない駄犬共を懲らしめてやりましょうか…………一瞬で逝かせてやるそれが俺のせめてもの慈悲だ」

 彼が左手で印を結ぶと地面から水が湧き出し、見る見るうちに龍を形どった水柱が複数個、空に向かって立ち上がった。

 その龍達を周囲に集めると、彼が目の前のモンスターの軍勢に向けて大きく上げた手を振り下ろす。

 彼の意図を汲み取ったように、一斉に敵に向かって襲い掛かる。たちまち巨大な水龍の口に飲み込まれていくモンスターはその体から出られずに溺死し、光に変わると透明な龍の体から光が溢れ出ているかのように美しくその身を飾る。
 
 彼に負けじと須佐之男は持っていた刀を振り抜くと、その刃が一瞬で伸びて敵を薙ぎ払い多くのモンスターの胴体が一瞬で真っ二つに斬り伏せる。
 
 それを見ていた大山津見はうずうずして抑えが効かなくなったようで、印を結ぶと木の根が蛇のようにモンスターの体に絡まり動きを止める。
 彼は楽しそうに笑い声を上げながらその中に飛び込み、次々と木の根で縛られているモンスターを一方的に斬り裂いて笑いながら殺戮を楽しんでいる。

 超攻撃的な彼等とは対照的なのは月詠だ。彼は持っていた扇を勢い良く振ると、地面から舞い上がる黒い砂が混ざり合って黒い風が吹き荒れた。
 その黒い砂は一瞬にして吸い込まれるように敵の持つ武器や防具にへばり付き、その装備の重さに耐えられずモンスターは次々と地面に伏せる。その光景を見た彼は満足そうに頷くと、腰に吊した瓢箪を手に持ち口に運ぶ。

 そしてこの中では唯一の女性である天照大御神は、手に持って突き出した太陽の形の杖の先から赤黒い炎を放出して、同じく赤黒い炎に身を包まれたモンスターの体を飲み込んでいく。
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