第270話 鍛冶場で・・・2

文字数 1,817文字

「あんたとあんたは、うちと同い年くらいだろ?」

 顔を覗かせているエリエと、横にいるカレンを交互に指差しているリコットに2人が声をそろえて。

「あんたじゃない! 俺はカレンだ!!」
「あんたじゃない! 私はエリエよ!!」

 2人の圧力に怯んだのか、リコットは一瞬仰け反り驚いた様子で目を見開いたが、すぐに笑顔を見せると。

「そっかそっか、それは悪かったね。うちはリコットってんだ。年齢は16、よろしくな! 2人はサブマスの知り合いなんだろ? なら、壊れそうな武器や防具はうちんとこに持ってきな! 格安で前よりいいものにして返してやるよ!」

 自信満々に胸を叩くリコットだが、2人の視線は彼女の大きな胸に向いている。

「――俺よりでかいとは……本当に同い年か?」
「――エミル姉くらいはあるかも……」

 羨望の眼差しで食い入るように見つめていると、リコットは胸を隠す仕草をして「まじまじと見られると恥ずかしいな?」と、少し頬を微かに赤らめながら言った。

 すると、奥にいたデイビッドがリコットに尋ねる。

「それはいいんだけど、俺達は紅蓮さんに呼ばれてここに来たんだ。彼女はどこにいるの?」

 その真剣な表情に、リコットも平静を取り戻して神妙な面持ちになると。

「ああ、サブマスならあの中だよ。付いてきな!」

 リコットはそう告げると、先陣を切って人垣を掻き分けて中へと消えていく。

 皆互いの顔を見合わせ意を決したようで頷きそれに続く。人を掻き分けて中へと強引に入っていくと、中には自分ほどの大きな金槌を手にした紅蓮が真っ赤に熱せられた鉄を打っている。

 白装束を纏った紅蓮が金槌を振り落とす度に、その長く美しい銀髪が揺れ、額から玉のような汗が真っ赤に弾けた鉄の火花と一緒に周囲に飛び散っていた。
 その光景が何故か神々しく見えたのは、その場に集まった皆が思っていたのだろう。一定のリズムでカンカンと音が響く中、ギャラリー達はその様子を見守っているだけだった。 

 紅蓮が最後と言わんばかりに大きく振り上げた金槌が熱せられた鉄に当たり。直後、金色の光を放つ。
 光が収まると、そこにはメルディウスのいつも持っている柄に刃の付いた大剣『ベルセルク』が置かれていた。

 額を流れる汗を拭った紅蓮は「ほっ」と大きく息を吐くと、金槌を隣にいたメルディウスに渡して、やってきたエリエ達を出迎える。

「皆さん。お忙しい中、来てくれてありがとうございます。実は明日の件でお話があるのです。ああ――」

 そこまで口にすると、思い出した様にエリエ達と一緒にいたリコットの方を向いて「後はよろしく……」と短く告げると、リコットも「了解。サブマス!」とにっこりと微笑みを浮かべて親指を立てた。

 だが、何故か紅蓮は彼女の発言に不満そうに眉をひそめる。 

 それを察して、エリエが恐る恐る彼女に尋ねた。すると、意外とあっさり紅蓮がエリエに小声で呟くように言った。

「……本当はメルディウスより下に思われるのは不満なんです。ですが、彼ほど皆を率いるのに相応しい人物もいません。私にはメルディウスほど、人を集める人徳はありませんから……」

 少し悲しげな表情をした紅蓮の話を聞いたエリエは、彼女の気持ちが分かる気がした――たとえ個々の能力で上回っていても、結局は集団の中でのコミュニケーション能力に左右されてしまう。

 特に紅蓮の固有スキルは『イモータル』不死の能力で、痛覚までは遮断できないのだが、それでも死なないというアドバンテージは大きい。それに比べてメルディウスの固有スキル『ビッグバン』は、それとは正反対の固有スキルだ――彼にとっては、紅蓮は天敵とも言える相対関係に属している。

 また、紅蓮は彼と対等の立場でいたいと考えているが、結局は口下手なところもあり。ギルドメンバーからも少し距離を置かれているのかもしれない。

 エリエも現実世界では家柄上。様々な人と交流しなければいけないのだが、元々それほど人付き合いが上手い性格ではなく。現実世界の人付き合いは広く浅くを貫いてきたのだが、唯一心を許せるのはエミル達。元ギルドメンバーぐらいなものだ。

 でも時折、自分よりも凄い固有スキルを持っているメンバーに囲まれていると、どうしてもいつか『自分が用無しになる日が来るのではないか……』と不安になる時もある。
 おそらく。彼女も同じ気持ちなのだろうと、一瞬だけ見せた紅蓮の表情の変化に自分の心境を重ねてしまったのである。
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