第324話 反撃の奇襲3

文字数 3,341文字

 いくら彼の従者達が強いとはいえ、物量で遥かに勝るモンスターの大群を撃破しきるには明らかに手が足りない。

 エミル達も素直に下がっているわけにはいかず、直ぐ様モンスターとの戦闘に参加する。
 離れないようになるべく固まって攻撃をしていたが、敵の勢いが物凄く撃破しても撃破しても無限に湧いてくるような錯覚に陥るくらいだ。

「――敵の勢いが強い! このままじゃ……イシェ!」
「はい!」

 戦闘中だったエミルが叫ぶと、背後で弓を放っているイシェルの後方へと下がった。

 彼女は手に持っていた弓を前に突き出すとエミルと自分を守るように見えない壁を張る。
 その隙にエミルは腰に差していた3つの巻物を地面に広げ笛を吹く、直後リントヴルムとダイヤモンドドラゴン、ヘルソードが現れる。

 それを確認してエミルは再び赤青黄の三色が捻れたように巻き付き合う笛を吹く。三体のドラゴンが上空に飛び上がり、真珠の様な球体へとその姿を変えた。数分後、光り輝く球体が半分に割れて中からダイヤモンドの装甲に覆われた翼の生えた竜人が姿を現した。月明かりを浴びて七色に輝くその美しい体は、ドラゴンの神を連想させる。手には薙刀の様な武器が握られている。

 龍神がその薙刀を振ると刃が逆に折れ曲がり、その刃が黒いオーラを纏う大鎌へと変わった。

 エミルはそれを見てホッとした様子で息を吐き出すと、すぐに鋭い眼光をイシェルの張っているバリアが破れるのを待っているモンスター達へと向ける。

「――イシェ!」
「――分かったわ!」

 彼女の掛け声とともにバリアを解くと、その時を待っていたモンスター達が一斉にエミル達目掛けて走ってくる。

 イシェルは上空に高く跳び上がり、持っている弓を地面に向けて構えた。地上に残っているエミルは両手に握り締めた水色の刃を持つ剣を左右に広げて勢い良く回転する。すると、周囲のモンスターを斬り裂き、彼女の周りには氷漬けの肉片と化した残骸と氷の結晶が舞い散る。

 直後。回転を止めたエミルは地面を蹴って勢い良く跳び上がり、それを合図に、イシェルが引き絞っていた弦から指を放し光の矢を地面に向けて放つ。

 地面に群がっていたモンスターに直撃し、敵を薙ぎ倒して地面に風穴を開けた。だが、イシェルの視線は矢を放った先にはなく、跳び上がったエミルをすでに空中で受け止めていた。

 空中でふわふわと浮かぶイシェルはがっしりとエミルを抱えたまま、地面を見つめていた。
 それでも地面を覆うほどのモンスターを撃破しきるには、それ相応の能力が必要になるだろう。

 地上ではメルディウスや白雪、デュラン達が頑張ってくれている。言い出しっぺのエミルがこの程度では申し訳ない……エミルはイシェルに耳打ちすると、リントヴルムZWEIの方へと向かっていった。

 リントヴルムZWEIの肩に乗ったエミルとイシェルは、直ぐ様モンスターを攻撃するようにと命令を出す。
 すると、リントヴルムZWEIもその命令に従うように、手に持っていた黒いオーラを纏った大鎌を振り抜く。

 敵が数百単位で空を舞って、光となって消えていく――。

「エミル姉達も頑張ってるみたいだね!」

 エリエが地上からエミルの出したリントヴルムZWEIの戦いぶりを見て、笑みを浮かべると、神妙な面持ちで赤いレイピアを構え直す。

 サーベルタイガーのシャルルに襲われていた彼女だったが、どうにかそれからは脱出できた様だ――まあ、結局は言うことを聞かなくなったシャルルに、ミレイニがかんしゃくを起こしてそっぽを向いたら自然とシャルルが離れただけなのだが……。

「味方のペットに撃破されそうになるってアクシデントはあったけど……彼等に負けてられない! デイビッド。私達も負けてられないわよ!」
「……いや、お前が動けなかった間は俺が守ってたんだが?」 

 彼の冷静なツッコミに、エリエは顔を真っ赤に染めながら彼を指差しながら叫んだ。

「――う、うるさい! 貸しにしといて上げるんだから感謝しなさいよね! ミレイニ。あんたも勝手に付いてきたんだから、私達の足を引っ張ったら承知しないわよ!」
「一番足を引っ張っているのはエリエだし。自覚がないとか……ぷぷぷっ、あたしなら恥ずかしくて死んじゃうしぃ~」
「――――くぅぅ……私が何も言えないと思って、戻ったら覚えてなさいよ……」

 ここぞとばかりに挑発するミレイニに、怒りを抑えて拳を握り締めると、街に戻ったら必ず仕返ししようと心に誓いながら敵に向かって突撃していく。

 向かってきた死霊系の鎧の兵士をレイピアで突き刺すと、空のはずの鎧の胴体の中を炎が包み鎧の兵士がもがきながら倒れた。

 地面に倒れのたうち回る鎧の兵士を見下ろし、レイピアを天に向けて突き上げて言った。

「私のこの武器はトレジャーアイテム『朱雀』四神の塔で確率でゲットできる装備で、周囲に炎を噴射できる。まあ、炎の勢いの扱いが難しいから使うのは大変だけどね……さて、次々いきますか!」

 掲げていたエリエの刃から炎が吹き出し、それを纏ったまま近くの敵に向かっていく。

 鎧を付けたスケルトンナイトの前まで移動すると、エリエは手に持っていたレイピアを胸に目掛けて前に突き出す。
 すると、炎がレイピアの攻撃範囲を超えた敵まで一緒に貫いて撃破する。モンスターの頭上に表示されたHPバーが尽きるのを確認して、エリエはレイピアを引き抜くと次の獲物を求めて走り出した。

 その後も次々にモンスターを撃破するが、やはり普段と違って攻撃速度が制限されているせいか、エリエは戦闘をしながらも時折首を傾げている。

 まあ、無理もない。攻撃速度特化にしているプレイヤーの殆どは軽装備であり、敏捷性を最大まで引き出している。こういったプレイヤーは皆、基本スキルの選択はスイフトで攻撃速度、移動速度を強化しているものだ――彼等の感覚はパワー系のゴリ押しプレイヤーよりも敏感であり繊細だ。軽い装備を選択していて防御力も低い為、ちょっとしたことでも撃破されかねない。そんな彼等はちょっとした変化にすら神経質になるのは当然と言えた……。

 新たな武器に苦戦している様子の彼女のサポートにデイビッドが入る。

「なにをやってるんだエリエ!」
「なにって、頑張ってやってるでしょ! この武器はいつものと勝手が違うのよ!」

 エリエはイライラしたように声を上げてデイビッドに言った。彼もそれには少し呆れた様子で頭を傾げている。

 そこに青い炎の鬣を持つ炎帝レオネルのアレキサンダーの背中に乗ったミレイニがやってきた。だが、ミレイニは憤るエリエの方を見てニヤリとバカにしたような笑みを浮かべ、そのまま止まることもなく駆け抜けていった。

 モンスターの中に飛び込んでいった炎帝レオネルは咆哮を上げると、炎を口から噴射し頭を大きく振ってモンスターの群れを瞬殺していく。
 エリエのライバル的な存在のカレンも拳から放たれる電撃で、一心不乱に殺気を放ちながらモンスターを次々に殴り倒している。

 その様子を見ていたエリエが怒りを爆発させてモンスターを勢い任せに撃破していく。しかし、先程よりも危なげはなく。逆に今までの悪くしていた彼女の癖が抜けた気がする。

 一撃で数体を同時に突き飛ばす炎を宿した刃から放たれる激しい突きは、今までの彼女の連撃を続ける攻撃スタイルとは正反対だ――。
 
 元々、エリエの攻撃方法は攻撃速度を出しやすいように脱力型だった。その為、ストロークが細かくダメージを与える形ではなかった。それが怒りに身を任せることによって、一撃一撃がしっかりと腕を振り切っているのが功を奏したのだろう。

 だが、ミレイニがそんなことを計算していたとは到底思えない。っとなると、ただ単純にエリエをからかっただけだなのだろう……。

 デイビッドは危なげなくなったエリエの戦いぶりに、安心した様子で刀を振ってその刀身から放たれる赤黒い炎が敵を呑み込んだ。

「――主にこれ以上の負担を掛けることは我輩が許さぬ!!」

 エリエ達の戦闘の横で、レイニールも黄金の巨竜の姿で炎を口から噴射しモンスターを次々と業火で消し炭にしている。その戦闘の様子から、レイニールが今回の作戦に全てを懸けていることが窺いしれた……。
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