第204話 黒い刀と黒い思惑6

文字数 1,577文字

 10人となれば、さすがに厳しいが5人程度ならエミルなら造作もない数だ。

 両手に持った刃のない剣を巧みに操り、あっという間に5人の持っていた黒刀を消滅させた。
 その破竹の勢いは、武器破壊に特化した今のエミルの武器だからこそできる芸当だ――普通ならば、武器破壊を限定とした装備を持っているプレイヤーは少ない。

 もちろん。それは持てるアイテムに限りがあるからこそ、武器破壊専用なんていう蛇足に使う用途の武器を入れていられないというのが正直な話であろう。

 エミルはドラゴンに武器そのものを常備させているからこそ、こういうイレギュラーな事態にも対処できるだけの話だ。
 大きく息を吐いて肩の力を抜き一息ついたエミルが影虎の方を見ると、彼はすでに戦いを終えていて、刀を地面に刺したまま腕組みしながらこちらを見ている。     

 敵の攻撃をいなしつつ、隙をみて持っている武器を破壊したエミルに対して影虎はまさに真逆の対応を取っていた。
 向かってくる敵の刀を、彼は持っていた刀の峰で真っ向から力尽くで粉砕していく方式を使っていた為、明らかなタイム差が生じたのだった。

 専用武器を使っていた自分より早く敵に片を付けた影虎にイラッとしながらも、結果的に助けてもらったかたちになったこともあり、お礼を言わなければならないと彼の元へ歩み寄る。

「あの……今回は助かったわ。ありがとう」

 気恥ずかしいエミルは少し口籠もりながら言った。

 すると、彼はにっこりと微笑み。

「そうか、なら口ではなく態度で示してほしいな!」

 っと言葉を返した。それを聞いたエミルは、あんぐりと口を開けたままぽかんとしている。
 それもそうだろう。確かに助けてはもらったが、それは半ば強引に彼が戦闘に介入してきたもので、エミル自身が彼に依頼したわけでも、懇願したわけでもないのだ。

 彼の返答を聞いて、エミルは眉をひそめながらしばらく考え込む。

「……分かった」

 エミルは小さく頷く。こんなことで、彼に逆恨みされては堪らない。
 ここは明確に形に残るもので代償を支払った方が、安全で確実だと判断しただけにすぎなかった。

 コマンドを開くと素早く指を動かし、徐にアイテムを取り出した。それは球体の形をしていて、透明の球体の中には水色の透き通る家が中に入っていた。

 エミルは取り出したその青く輝く球体を影虎に渡す。

「これは大会優勝者に渡される宝玉よ。これを使えば、思い通りのマイハウスを造る事ができるわ。相当なレアアイテムだから換金してもいいし――」
「――そんな物はいらない。そんな事より、俺とデートしてくれ」

 言葉を遮って影虎が発した言葉に、エミルの思考は一瞬停止してポカンと口を開けたまま首を傾げた。

「………………はあ!?」

 衝撃的な発言をした彼に、エミルは思わず手に持っていた宝玉を地面に落とす。彼の発した言葉の意味が理解できずに、呆然と前だけを見つめているエミル。
 
 影虎はそんなエミルの手を握り締めると、ぐいっと身を乗り出して更に詰め寄る。

「俺が欲しいのはお前だけだ!」

 淀みのない瞳で言い寄って来る影虎に、エミルは苦笑いを浮かべ、即座に手を放して地面に転がった宝玉を拾い上げて彼の手に渡す。 

「か、考えておくわ! とりあえず。これはしっかり受け取って! それじゃ、私は次に行かないといけないから。じゃあね!」

 そう言い残したエミルは、慌ただしくその場を立ち去っていく。

 その場に取り残され、去っていく彼女の後ろ姿を見つめる彼が徐に口を開く。

「――これは脈ありだ!!」

 高らかに叫んだ影虎は、徐々に小さくなるエミルを見つめながらエミルから渡された宝玉をギュッと握り締めた。

 その後、地面に刺した刀を抜き取ると、それを肩に担ぐ。

「不届き者を成敗するのも、義を示す道か……」

 そう呟き、影虎は街の中へと消えていった。 
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