第165話 守護者と化物皇子

文字数 1,246文字

 私は、バルクル・ラグーン。

 ラグーン王国の国王だ。



 私には秘密がある。

 其の秘密を知る者は、全て亡くなった。

 いや、一人だけ兄上が父上から話を聞いていた。

 私の死後は、全て兄上に託そう。

 私が死んだ後、私の心臓をラグーン王国へ捧げよう。

 永遠にラグーン王国を守護する為に。



「兄上、ザッドスが動き出しました。私は行かねば為りません」

「解った、バル! 死ぬなよ!」

 兄のエリルクが、私を心配そうに見つめる。

 ふっ、こんなにも近くに兄を感じる日が来るとは。



「ふっ、ザッドスのハイエナめ!」

 私の目に映るのは、卑しくも、泥棒を国ごと働こうとする輩達だった。

 私は自分の目の前に、透明の板を出現させる。

 此れが私の秘密の力。

 私は透明な板を触りながら、対応していく。

 すると、我が国へ攻め込んで来たザッドス王国軍約2000名に、天変地異が襲い掛かる。

 私が透明な板に触り、ザッドス王国軍を板上で丸く円を描くように囲み、浮かび出る文言を触り押す。

 地面は地響きを上げて、ザッドスの兵士達を奈落の底へ飲み込んでいく。

 私が板上で同じ動作を繰り返す度に、空は曇り雷が、稲妻が、ザッドス兵に振り注ぐ。

 雨は激しく振り、地面は泥濘(どろぬま)と為り、ザッドス兵を底なし沼の如く、泥濘(でいねい)に呑み込んでいく。

 阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄絵図が、顕現(けんげん)する。

 私は、ラグーンの守護者。

 ラグーンを侵す者は、誰であろうと許さない。

 

「はぁ、はぁはぁ、・・・・・・」

 私の身の内から、抜け出る力。

 魔力。

 其れが枯渇しかかっていた。

 枯渇すれば、回復すると言う簡単なものではない。

 枯渇状態の侭で、魔力が回復しなければ、生命力が減っていき、やがて死ぬ。

 程々で倒せる相手ならば良いが、今回のような大規模な天変地異を起こすには、私の魔力量は少なすぎたのだった。



 う、うん? 板上に新たな反応が?

 未確認個体? 数は十数人だが。

 何故、此処に向かって来ているのか?

 私は、薄れ行く意識を、手にした剣で自分の太腿を刺し意識を保つ。

 だが、私の生命力は激減していく。

 過剰な魔力酷使により、身体が拒否反応を示しているようだ。

 くっ、こんな時に。

 そう思いながら、私は意識を失った。



 パチパチパチ、・・・・・・

 う、うう、うん? 

 私は、どうやら眠っていたようだ。

 焚き火が、私の身体を温める。

 あったかい、あれほど魔力の禁断症状で苦しみ、寒気に、卒倒しそうだったのに。

 凄く体調が良くなっている。



「やぁ、もう身体は大丈夫?」

  そう私に声を掛けたのは、年端もいかないエルフの少年だった。







  私はバルクル・ラグーン。

  ラグーン王国の国王で、ラグーンの守護者だ。
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